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落語「死神」

米津玄師の歌になったからか、youtubeで落語「死神」を目にすることが多い。

落語への造詣がないので話の内容は知らなかったが、見てみると面白い。なんでもこの落語、話し手によってオチを変えてよいらしい。(落語では、オチのことを「サゲ」という)

確かに話し手や時期によってサゲもバリエーション豊富である。

私ならどうするだろう。クリエイターに端くれ、いや端くれにもなっていない粒として考えた。

「死神」

時は昔、ここに一人の男がおります。

この男、女房1人、子供1人も満足に養えない冴えない男でございます。

「早く飯代くらい稼いでこい!稼いでこれなきゃ借りてこい!」

「豆腐の角に頭ぶつけて死んじまえ!」

「でていけこのやろー」

などと今ならモラハラ間違いなしの罵声を女房に浴びせられても、強く言い返すことができずにただただ耐え忍んでいたのでございます。

「豆腐に頭ぶつけて死ねるかよ」心に中で言い返すのがやっとこさでございました。

行く当てもなくトボトボと歩いていると目の前に大きな川が流れていました。

「いっそ死んでやろうか」

橋げたに足をかけた瞬間

「あ、オレ泳げねーや」

死ぬのになぜ助かることを心配するのか分かりませんが、とにかく川への飛び込みがなくなりました。

見上げてみると、大きく太い木が目に入ってきました。

「あれだ。あそこに首くくって死のう」

そう決心すると男は木の下までいきました。

高さも太さも十分。男は帯を外して、枝にくくりつけました。よし。首をくくろうと思ったときふと思いました。

「苦しいのはイヤだな」

一瞬とはいえ苦しむことに躊躇したのでございます。

「できれば楽に死にたい。楽に死ねる方法を探そう」

首吊りをあきらめた男は帯を枝から外して、腰に巻きなおしました。

「オメーさん、死にたいのかい」

「え?」

「死にたいのかいって聞いてんだ」

男が振り向くと、顔色の青白く全く生気を感じない初老の男が杖をついて立っていました。

「お、オタクどなた?」

「死神だ」

「死神?」

「そうだ」

「プハハハ。あんた私をからかってんのかい。死神なんているわきゃねーだろ」

「信じるも信じないもアナタ次第です」

「どっかで聞いたようなセリフだね」

「お前の命の火は、まだ燃えさかっている。金がないくらいで死ぬのは止めろ。」

「そんなこと言ったってこちとら今夜の飯代もないんでさあ」

「第一、お前さん死ぬ気ないだろ」

「そんなことあ、、、」

「死ぬ人間が、泳げないから川に飛び込まないだの、苦しいのが嫌だから首釣りがイヤだの思うもんかい」

「な、なんでご存知なんで!?」

「お前の思ってることなどお見通しだ。死神、一応神だからな」

「神様ならお金恵んでくれるんで?」

「教えてやる」

「なにを?」

「金を稼ぐ方法だ」

「なんですかいそれは」

「医者になれ」

「ハハハ。医者になれたってーあんた、こちとら脈の取り方もろくすっぽ知らないんですぜ。バカなこといっちゃあいけないよ」

「いらんいらん。脈の取り方なんぞ知らないでいい。秘密の呪文を教えてやるから、それを唱えるだけでいい」

「そんなんでいいんですかい」

「いいか。よく聞け。今日からお前は寝ている病人を見ると、死神が見えるようになる。死神が病人の枕元に立っていたら、寿命。足元に立っていたら病気だ。」

「ですからー死神さんが見えたところでどうしようもないんでさ」

「話を最後まで聞け。寿命のときはどうしようもない。だが、病気のときはアジャラカモクレン、コロナウイルス、テケレッツのパーと唱えて手を3回たたけ。そうすれば、足元の死神はいなくなる。病気もアっというまに治る」

「へーそんなんで治るんですかい」

「ちょうどあそこに、長く患っている病人がいる。試してみろ」

死神の言われたとおり、男は病人の家にはいっていきました。

「ごめんくださーい」

「はい。なんでしょうか」

「ぶしつけなことお聞きしますが、こちらに病人さんはいらっしゃいますか」

「へえ。うちの主人が半年ほど患っておりまして寝たきりです。お医者にかかろうにもお金がなくてねえ」

「あっしに見させてもらえませんでしょうか。こう見えてもあっしは医者なんでさ」

「見てもらうのはありがたいんですが、うちにはお金が」

「お金はいりませんよ。通りすがりセール実施中で、タダにしておきまさ」

そういうと男は、家にあがりこんだ。

家には、顔が真っ青でやせ細った男が寝ておりました。

そして、足元には死神が立っておりました。

(ほ、ホントだ。死神が見える!)

「アジャラカモクレン、コロナウイルス、テケレッツのパー!」

そう唱えると、死神がフッと消えました。

「ふああーよく寝た」

見ていた家人はびっくりだ。

「あんた、具合はもういいのかい!?」

「どっこも悪くねえ。ウソみたいだ。腹が減った。飯の支度をしてくれ!」

そういうと丼飯2杯をかっこんだ。

(こいつはすげーや)

ほくそ笑んだのはこの男だ。

またたく真に評判が広がり、男の家の前に列ができた。

お金も面白いようにはいってきた。

しかし、男ってのはバカなもんで金ができると使っちまう。

毎夜毎夜、家にも帰らず大勢引き連れて飲み歩いた。

いくら稼いでくるってもさすがに奥さんも黙っちゃいない。あるときいよいよ堪忍袋の緒が切れて、幼子の手を引き旦那が飲んでるところへ乗り込んだ。

「死神さん、あんたのお陰で、オレはこうして、、、」

「あんたいい加減におしよ!」

振り帰ると、顔を真っ赤にした女房が立っていた。

「ああーん。金ならこの間渡したろ。つかっちまったのかい。じゃあこれを、、、」

「そうじゃないよ!たまには家に帰ってきておくれよ。この子もさみしがってるじゃないか」

齢4歳の幼子は、居酒屋の空気におびえながらガタガタ震えて母親の影に隠れてる。

「うるせー金稼いでなんの文句がある!」

そういうと目の前にあった皿、小鉢、徳利なんぞを手当たり次第に女房子供に向けて投げつけた。

ガッシャーん!割れた破片やらなんやらが辺りに飛び散った。

我慢してた幼子はとうとう泣き出した。

「お前さん、いくらなんだってモノ投げることはねーだろよ」

「死神さんが説教ですかい」

たまらず母親、子供を抱えて酒屋をあとにした。


そんな日が続いていよいよ金が底をついてきた。

まさか病気の人いますか、なんて聞いて歩けるわけない。

「どっか病人でもいないかなあ」

などと思っていると、訪ねてくる人があった。

「家にながく患っている家人がおります。見ていただけないでしょうか」

「まかしておくんなさい!」

そういうとすぐさま駆け付けた。

だが見てガッカリ。寝床の病人には、死神が立っていた。それも枕元に。

「奥さんこりゃダメだわ」

「そこをなんとか」

「なんとかしてーのは、山々だけど。こればっかりはねー」

「一日だけでもいいんです」

「そんなこと言ったってねえ」

「100両」

「え?」

「いや、1000両さしあげましょう。」

「せせ、1000両!」

「はい」

「その言葉に嘘はねーな。1000両この場でくれるってのかい」

「その通りです」

「うう、、、」

根っから貧乏のこの男、1000両と聞いて心がグラグラ揺れた。1000両あったら一生遊んで暮らせる。

しかし、死神は枕元に立っている。

なにか手はないものか

ピーン!名案が思い付くときに、こんな音がするかどうかは知らないがとにかく思いついた。

(これをあーして、これをこーして)

「なにをぶつぶつおっしゃてるんで?」

「旦那さんの病気がなおるかもしれない!」

「なんですって」

「いいかい。いまから力持ちの男4人を集めてくだせえ。その4人を布団の四隅に立たせてください」

すると、見るから力持ちの男4人が集まり、布団の四隅にたった。

「いいかい。オレが合図したら、布団の四隅をもってクルっと回転させてくんな。一回転じゃねーぞ。半回転だ。頭が足に、足が頭の場所にすれば成功だ。ただその合図をいつするかはわからねえ。そのときが来たら、膝をポンっとたたくからそしたら、素早くクルっだ」

その時はいつくるのか、、

夕方が晩になり、夜中になった。草木も眠る丑三つ時をすぎてもまだ膝はならない。

向こうのほうから、静かーに太陽が昇りそうなとき。枕元の死神がウトウトし始めた。

「いまだ!」そういうと、男は膝をポンっとたたいた。四隅の男たちはクルっと布団を反転させた。

頭が足に、足が頭に。

驚いたのは死神だ。ありゃ、頭がない。

「アジャラカモクレン、コロナウイルス、テケレッツのパー!」

男が唱えると、死神はサーッといなくなった。

「ふあーよく寝た」

長いこと寝たきりだった男が、あっというまに元気になった。

みんな大喜び。

男は1000両もらってささっとその家をあとにした。

そこから先は、酒を浴びるほど飲んで、食いたいものを食っての大盤振る舞いだ。時間がたつのを忘れて、遊びまくった。

もう何軒目かも分からない酒屋をでると、後ろから声がかかった。

ふりかえると、死神が立っていた。

「おや死神さん」

「お前さんやってくれたな」

言われて男はピーンときた。布団をひっくりかえしたあのことだ。

「やっぱりいけなかったですかい?」

「当たり前だ。お前がやったことは死に値する。」

「ひーっつ死んじまうんですかい」

「そうだ。」

死神が杖を振りかざすと、あたりはたちまち真っ暗になった。

周りを見渡すと、無数の蝋燭が男と死神を囲んでいた。

「蝋燭の下を見てみろ」

よくみると、蝋燭の根本に名前が書いてある。

大きくて長くて炎がメラメラと燃えている蝋燭には、子供の名前がかいてあった。

「あ、こりゃうちの坊主のだ。となりのは、うちのカミさんのがあらあ」

「その隣もみてみろ」

いまにも消えそうな弱々しいやっとこさついている炎を抱えた薄っぺらーい蝋燭があった。

そこには、その男の名前があった。

「こ、この蝋燭はオレのかい!?」

「そうだよ」

死神は薄ら笑いを浮かべてうなずいた。

「いまにも消えちまうじゃねーか」

「そうだよ」

「消えたらオレは」

「死んじゃうよ」

「なんでこんなに小さくなっちまってるんですかい。病気してるわけでもねーってのに」

「お前が死神との約束を破っちまったからさ。さっき言ったろう、死に値するって」

「助けてくれ。まだ死にたくねえ!」

「それはできないね」

「分かった。金ならやる。1,000両もらったからその半分、いや残り全部やってもいい。少し使っちまったが、当分は金に困らねえはずだ」

「死神が金なんぞでつられるかよ」

「おりゃいったいどうすれば、、」

そういうと男は大声で泣き出した。

「しょうがねえ。オレも元人間だ。情けはある。お前にチャンスをやろう」

「助けてくれるんで?」

「チャンスだ。ここに1本の蝋燭がある。今にも消えそうなお前さんの蝋燭から、この大きな蝋燭に火を付け替えてみろ。うまく付け替えることができたらこの蝋燭がお前さんの新しい命の炎を灯してくれるだろう」

「わ、わかった。付け替えりゃいいんだな。カンタンカンタン」

男は、蝋燭をとって火を付け替えようとするが、どうにもうまくいかない。手がガタガタ震えて炎がユラユラしてる。熱くもねえのに汗がダラダラ流れてきやがる。

「きえちゃうよ」

「ヒッツ。いきなり話かけてこねーでくだせーよ!」

「手が震えてるからねえ。なんかの拍子にフッとね」

死神は薄ら笑いを浮かべている。

「そんなことわかってらあ!火消しちまったら、お、オレの命が、、、」

それだけ言うと男は再度蝋燭に集中した。

「きえちゃうよ」

「ヒッツ。もううるせーな!」

「お前さん、汗がタラタラだ。それがお前さんの今にも消えそうな小さーな蝋燭にポタっと垂れてみな。ジュッと」

男は蝋燭から顔を離した。気が付くと大量の汗で額から顎までびっしょりだ。顎からしたたり落ちて胸元までグチョグチョだ。

気を取り直して蝋燭を見つめる。普段なら蝋燭に火をつけることなど造作もないことだが今回ばかりは勝手が違う。

後悔と死への恐怖で、火が大きく見える。吸い込まれちまいそうだ。

湿ってる蝋燭渡したんじゃねーのか。いらだつ心を抑えながら炎に向き合う。

ジジッ

ジジッ

ジジッ

ボッ

点いた。

蝋燭に火が移った。やった。

「や、やったー!ひ、火がついた。これで生きれる。やった!」

火の移った蝋燭の下に男の名前が浮かんできた。

「見て見て見て!」

男は、死神に蝋燭を手渡した。

「一応おめでとさんといっておこうか。この先に階段がある。その階段を登れば元の場所に帰れる」

「死神のおっさんありがとう」

そういうと男は駆け足でいっちまった。


「お前さんの旦那は生き延びちまったねえ」

死神が振り返ると、男の女房が立っていた。裾の影に隠れて子供も立っていた。

「情けをかけていただきありがとうございます」

「あんなロクデナシのどこが、、いや聞くまい」

「一度でも惚れたものの弱みですかね」

死神は腰を折り曲げ、子供の頭を撫でた。

「この子にとっちゃ、たった一人の父親だもんなあ。ぼうや、この蝋燭がお父ちゃんの」

「フッ」

















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