899-903.20240711:711号室の回:ヨキー
前話のご案内
久幸と凌司のお話
話中の万禮一家は、 メンバーシップ「夢了の皿」会員の万禮様のオリジナル・キャラクターで 設定その他は会員様御本人と話し合っております。
711号室出演者≒メンバーシップ会員様は常時募集中です♡
万禮様の偶さか日記も併せてお読みいただくと解像度とエモさが跳満です。
711号室
主な登場人物
本編
わたしは環を持つ土塊の星の
ストュスアイ王国セトフォルドに建つ
集合住宅の4階の一角にある711号室。
記憶と意思を持つ。
今日はマリエラセス暦3905年9月10日緑曜日、
帰還魔法の準備が調ったそうで
元711号室の住人でランの養母である
リエール・スウェイトウディスが
管理人と共に我が711号室に来訪した。
リエールは711号室の壁という壁に、
彼女の愛娘等がこれまでに
信頼を築いた相手の写し絵を魔法の糊で貼り、
床には当人等の写し絵と
将来を誓った相手の写し絵を並べ、
魔法の炭で巨大な魔法陣を描いた。
オルエハスネム巫術の客、
幻を知る者の客、
学校関係者、近隣住民、上司、同僚、
家族、友人、婚約者……
魔法で使う以上は分身に等しい写し絵を、
彼等の帰還の為に提供しても構わぬ程に
信頼を寄せてくれた者達の数は夥しい。
居ないのはこの世に居ない者だけ。
ヒューマンも獣人も愛玩動物も
魔物も龍族も竜族も龍人も竜人も精霊も聖霊も、
一名漏らさず快諾したのだ。
だが、C'mon諭の面々や若き友人達は
快く撮り下ろしの写真を提供してくれたが、
この時空の多くの生き物にとって
写真はまだ恐れの対象であった為に、
そういう者達は一人一人
肖像画を描かせてもらったのだから、
大変な手間と時間が掛かったのである。
リエールは哀れを誘う程に
根気良く彼等の写し絵を集めた。
奇しくも今日はC'mon諭の面々の時空
グレゴリオ暦では7月11日、
ランの誕生日である。
毎年「たのもー!」と叫びながら
やって来る猫獣人の二人組は、
今年も「たのもー!」と叫びながらやって来た。
時代は異なるが711号室の住人であった
フレデリックとソーを伴って。
このフレデリックとソーも
7月11日生まれである。
ソーは誕生花とされている
フクシアの白とピンクの花束を携えて、
フレデリックは誕生石とされている半円真珠を、
真珠の声を聴く者である父に助力を乞うて
捜し出し、連れて来た。
宝石精霊は持ち主を選ぶから、
持ってではなく連れて来るのである。
チカッツ「ランさまのおかあさま」
ナリス「なりちん達の星だと
ランちゃのお誕生日だから来ました!」
チカッツ「7月11日に711号室で
7月11日生まれのお友達と再会!
きっと特別な界狭間が開くと思うのです!」
満面に自信たっぷりの笑顔を湛えた
小さな猫獣人達の大きな瞼と頬は
真っ赤に腫れ上がっていた。
目の下には隈取りができていて、
リエール同様に
長い間充分に睡眠を取っていない事が覗えた。
友人の留守に涙し、
友人の為に日がな一日中知恵を絞り、
思いつく限りの手を尽くし続けてきたに違いない。
チカッツ「ナリスとチカッツに
お手伝いできる事はありませんか?」
ソー「俺達も精一杯尽力します」
リエール「ああ、素晴らしいお友達!
ありがとう。この星の字は読めますか?」
ナリス「ちかちんもなりちんも読めるよ!」
フレデリック「私達も読めます」
リエール「四人とも勉強家なのね!
ではこのお茶を飲んで
喉を充分に潤してから始めますので、
この呪文を私と一緒に唱えてください。
魔法陣が輝くまで、
諦めず焦らず何百遍でも、
繰り返し繰り返しお願いします」
強い決意に満ちた眼差しで
四名は力強く肯いた。
「ヨキー、ヨキー、おかえり、ただいま、
711号室でヨキー、ヨキー。
スュクセ、ヨキー、真弓、ヨキー、
華代、ヨキー、泰市、ヨキー、
サンタ、ヨキー、ラン、ヨキー、トゥ、ヨキー。
最も長く信頼された
最も強い絆魔法よ助けてお願い。
私達の大切な者達を返して」
幾度も幾度も五名は呪文を繰り返し、
とうとう老いたリエールの喉が嗄れ始めた頃、
無尽蔵に白い靄が湧くだけであった魔法陣に、
強烈な閃光が走った。
魔法陣の無い天井が閃光で溶けたかの如く消え、
我が愛ぐし子等が現れ、
ふわりと床へ舞い降りた。
ラン「ヨキー! ママー!」
トゥ「ヨキー! ママ上ー!」
泰市「ヨキー! ママー!」
トゥ「ヨキー! 711号室さん!」
ソー「ヨキー、ランさん」
フレデリック「ヨキー、トゥさん」
ラン「ヨキー! 7月11日生まれ友の会!」
華代「ヨキー! スューちゃん、
泰市ちゃん、サンタちゃん戻れて良かったね!」
真弓「ヨキー! リエール様、ほんっとうに!
戻してくださりありがとうございました!」
最も大騒ぎするであろうと予測された
ナリスとチカッツであったが、
友の姿を認めた瞬間に抱き合って歓び、
安堵でその場にもつれ合ったまま
寝落ちてしまったのであった。
ラン「ヨキー、ナリス。
ヨキー、チカッツ。ありがとうね」
キャレンタが毎日手入れしたランの寝床へ、
ランはナリスとチカッツを運んで寝かせると、
懐かしの我が家を眺めて回った。
天井は何事も無かったかの如く戻っており、
リエールが集めた写し絵は職務を完遂して、
靄や魔法陣と共に一枚すら残さず消滅している。
だがしかし、
此等の気配が仄明るく暖かく部屋中に充ちている。
オルエハスネム巫術の加護が、
微かに揺蕩ってこだましている
写し絵に居た全員の歓迎の声を
ヨキーヨキーとラントゥ泰市に聞かせる。
幻を知る者であるトゥが感嘆の溜め息を吐いた。
己が発明した魔法陣が視えるのであろう。
徹底的に覆われた壁面床面が視えるのであろう。
壁一面床一面の
見覚えのある人々が視えるのであろう。
一枚すら複写は無いが、
皆一様に笑顔でヨキーと言った時の表情である。
感涙もする訳である。
ソー「じゃ、俺達はこれで。
また機会を改めて祝賀会でも開いてくれよ。
喜んで呼ばれるからさ」
ラン「ナリスとチカッツが居なくて帰れるの?」
フレデリック「大丈夫、
向こうにもブンブンが在る」
ブンブンとは表向きは貸し自動車業者の名称だが、
支店同士を界狭間で繋いでおり、
特別客には界狭間を使わせてくれるのである。
わたしの記憶の限り存続している。
リエールがベランダの界狭間を使って
ズィゴーキュの邸から取り寄せた心尽くしの
御礼と誕生祝いの品を抱える程
ソーとフレデリックに持たせ、
大人達は未来から馳せ参じてくれた
二人の友を丁重に見送った。
既に泰市は
スュクセとサンタと繋がっている
魔法の手綱を手首に巻き付けたまま、
ナリスとチカッツが眠る
ランの寝床で丸くなっていた。
瞼が閉じきる事も待てずに眠ったようだ。
冒険の記憶を再現しては
整理しているのであろうか、
泰市の手足と瞼は落ち着きなく
小刻みに動き続けている。
リエール「さぁ、愛しい娘達よ、どうしたい?」
トゥ「話したい事は
たくさんあるのですけれど……」
ラン「そう、だけどやっと安心できたから寝たい」
リエール「そうでしょうね、
このお茶を飲んだらおやすみなさい。
落ち着いたらご飯も恋しくなるでしょうから、
直ぐに食べられる物を置いておくわ。
目覚めた時に一人でも、
お腹が減っていたら各自で食べるのよ。
我が家の最高料理長が
腕によりをかけて作ったから安心してね」
リエールは自他ともに認める料理音痴である。
五工程以上の調理には
風味に謎の突然変異が起こる。
ランの目頭に戦慄が走ったが、
最後の一言で緊張が解けた。
最高料理長とは
ランの養父ロイスを指すからである。
ランと同じく魔力を殆ど持たぬ物理の人だが、
柔和な人柄で家事全般を完璧に熟す。
昂った神経と脳を鎮静させる
薬草をリエールが温めた牛乳で淹れ、
愛らしい飾り黒糖を銘々で加えると、
皆一様に両手で包むようにして
厚手の大きな丸いカップを持って
行儀良く「いただきます」と呟き、
ゆっくりと中身を啜った。
一人また一人と、
溜め息を吐いたり、
天井を見上げたり、
四肢を伸ばしたり、
上体を捻ったり、
首や肩を回したり、
凝り固まっていた肉体の緊張を解し始めた。
そして周りを再び三度と見回して、
誰へともなく上擦った声で呟いた。
誰の瞳も潤んでいる。
トゥ「711号室ですねえ……」
ラン「……本当に帰ったんだね」
真弓「皆さん本当に揃ってるのですよね……」
華代「嬉しい……本当に辛かった」
皆が華代の背や頭を摩ろうと手を伸ばした。
ラン「ほんっと、
『マジ巫山戯んな』だったんだけど
……みんなはどうだった?」
殻持たぬ青海の星の若者が感情的に使う言葉が
ランの口から飛び出した。
四十七日間、
ランは皆とは異なる世界に居たようだ。
真弓「私はギレルミナさんが話しておられた
金色の星に行った様でした。
何の縁も所縁も無い処だったのですが。
まぁ、大概あちらでの体験も
『マジ巫山戯んな』でしたねえ」
ラン「本当に暴走も大暴走だったんだね、界狭間。
本来界狭間は縁も所縁もない処になん……
か……繋が……れなぃ……か…………」
リエール「はい、続きは明日ね。
ベッドへ行きなさい。
後片付けは私の敏腕遣い魔に任せて、
眠ってしまいなさい」
リエールは家事を任せられる
遣い魔を使役する事が、
若い頃から得意であった。
各々が完璧に整えられた
寝床に潜り込んだ事を確認すると、
リエールは五体の遣い魔へ指示を出して、
ベランダの絶えずの藤を愛でてから
ズィゴーキュの邸へ帰った。
ヨキー:おはよう・こんにちは・こんばんは・
おかえり・ただいま、
これらを全て意味する挨拶言葉。
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711号室第一期第一話
色々
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