20211230:711号室の回:界狭間について
わたしは環を持つ土塊の星の
ストュスアイ王国セトフォルドに建つ集合住宅の711号室。
記憶と意思を持つ。
今日はマリエラセス暦3896年12月25日青曜日。
今のグロリアスは、
無理が祟って気を失い、そのまま丸一日寝込んだ。
後のグロリアスの加護精霊は、
刀畿からの文を声に出して読み終えるや否や、
「かんしゃする」と一言だけ書き置いて界狭間に向かって飛び出した。
以後、戻っていない。
後のグロリアスは、
本日もとうとう一度も姿を現わさなかった。
刀畿は、
今のグロリアスが夢現のうわ言で頻りに
「先生、東、左、南、南東、下……違う、上じゃない」
と繰り返すので、
後のグロリアスの加護精霊が再び戻って来た時の為に文をしたためた。
「爺グロリアスの加護精霊へ
もし上手く行かなかったら駄目元で
東、左、南、南東、下、この順を試してみると良い。
上手く帰れる事を祈ってる。
忘れても善き友で在り続ける刀畿より」
以上が全文だ。
多くの被加護者は、加護精霊・加護聖霊を先生と呼ぶ。
界狭間の様相は見る者によって異なる場合もあるようだが、
迷う者の多くに
「気の遠くなる程の数の、多種多様な形状の動く、気が触れたかの段数の階段」
と表現される。
段は自動で上下左右に流れるので、体力を消耗する事は無いが、酔うそうだ。
神や妖魔などの行先の確定しているものの目に、この階段が視えたという記録は無い。
入口を入った次の瞬間には、出口を出て目的地に到着しているという。
ばーすせいばーも何らかの制御下で行先を確定されているのだろう。
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