「あなたの一票で社会が変わる」とは言うけれども、そもそも「変わる」ってなに?
ここ数日、衆院選の影響もあり、「変わる」「変わらない」といった類の言葉を見かけることが増えた。
「あなたの一票で社会が変わる」「選挙があってもどうせ体制は変わらない」──多くの識者やインフルエンサーが、「変わる」ことについて喧々諤々の議論を交わしていた。
もちろん、社会的に不便益を被っている人たちの状況を改善することはつねに必要であるし、僕は編集者という仕事柄「社会を変える」を仕事にしている人たちに伴走することも多い。
しかし、そもそも「変わる」とは何だろうか?
(※)本ブログは、株式会社PLANETSが発行する雑誌『モノノメ 創刊号』について、そのいち編集部員である僕が、個人的な所感を綴ったものです。このブログを通じて、より多くの方に『モノノメ 創刊号』を手に取ってもらい、既に購入いただいた方にはより多角的に雑誌を読む一助としてもらいたいという目的で書いています。
「諸行無常」という言葉もあるが、あらゆる物事は常に変わり続けているはずだ。かつて福岡伸一が生命の本質を「動的平衡」という不断の合成と分解のプロセスだと定義したように、僕らは常に移ろっていて、今この瞬間の僕は、二度と帰ってこない。
つまり、僕らは黙っていても、否応なく変えられてしまっているのだ。
だからこそ、確かなもの、それは本来的にはフィクションであるのだけれど、変わらないものを求めてしまうのだろう。
目の前のものごとを改善すべく、変えるためのアクションを取ることはもちろん大事だ。しかし、真に物事を変えるためには、なぜ変わらないのか、そもそも「変える」とはなにかまで遡って考えることが、結果的に近道になることもあるのではないだろうか。
PLANETSの新雑誌『モノノメ 創刊号』に収録されている、[創作]浅生鴨 「穴」は、まさにこの「変わる」「変わらない」とはなにか、根源的に考えさせてくれる小説だ。あまり言うとネタバレになってしまうので、細かい設定を詳らかにすることはここではやめておくが、一見すると僕らの世の中とは真逆の社会を舞台に、僕らと同じような「変わる」「変わらない」をめぐる心情が繊細に描かれている。
これなんだ。これが原因なんだ。ものごとが変わらないのは、変えないからじゃない。変化に抵抗するからなのだ。けれども、それは動き続けるエスカレーターの上で後ろ向きに動き続けるようなものだ。その無限のループがオレたちを昨日と同じ明日へ閉じ込めている。後ろ向きに歩くことを止めさえすれば、前へ進めるのにそうはしない。(p241)
生きているだけで、否応なしに変えられてしまう僕たち。それゆえに変わらないものを求める一方で、変わることも求める。そんな「変わる」「変わらない」をめぐる力学を、ビターでシニカルながらも、どこか温かみのある筆致で描き出す。衆院選をめぐる洪水のような情報に疲れた人にこそ、読んでほしい、約25ページの小説。
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