
「空間デザイン」パートナー決定。そしてソウルへ──書店(など)制作記#5
2025年5月、横浜・白楽にて書店(など)を開業予定です。書店(+ちょっと飲食)であり、イベントスペースであり、コワーキングスペースであり、自分の編集事務所でもあるような、小さな複合文化施設。その「制作」の道のりを、できる限り具体的に記していきます。跡地を引き継がせていただく「ブックカフェはるや」に深い感謝。2025年3月にクラウドファンディング実施予定。
よろしければマガジンもフォローいただけたら嬉しいです。
▶書店(など)制作記──横浜・白楽にて
【2025年2月3週目】
今週はまず一つ、大きな報告がある。先月から懸案事項としてこの「制作記」にもちょこちょこ書いていた「空間デザイン」問題だが、記事を読んで色々と取り計らってくださったみなさんのおかげもあり、ついに空間デザインのパートナーを引き受けてくださる建築家さんが決定した。
今回の書店(など)の空間デザインを担当してくださるのは、建築家の神永 侑子さん(AKINAI GARDEN STUDIO 共同主宰)に決まった。
神永さんは横浜の中心部から少しだけ離れた「弘明寺(ぐみょうじ)」というエリア(基本的には住宅街だけれど、活気ある商店街が有名なエリアでもある)で、ご夫婦で建築設計事務所「AKINAI GARDEN STUDIO」を営まれている。
特筆すべきは、ご自宅のあるマンションの1階で、2019年よりシェア小商スペース「アキナイガーデン」を運営されていたこと。「小商い暮らし」というコンセプトのもと、将来自分のお店を持ちたい人や、新しいチャレンジをしたい人のための「小商い実験室」を約5年運営されていた。
ちなみに2024年8月からは、この元・アキナイガーデンのスペースでは、「小商い」出店者のお一人が常設店としてコーヒースタンド「PEACH COFFEE」を営まれており、まさに「実験」から新しいまちのプレイヤーが生まれたというかたちだ。なおアキナイガーデンを引き継いだ後も、神永さんたちはまちの「商い」を盛り上げる新たな取り組みに踏み出しており、今年からは弘明寺の商店街で月1回のマーケット「橋の上の弘明寺市場」を開催されている。
僕もこの前、久しぶりに弘明寺の商店街を訪れつつ、「PEACH COFFEE」やその上にある神永さんたちの事務所に遊びに行かせていただいたのだけれど、真ん中に橋があるのが特徴的な弘明寺の商店街によく馴染んでいる、とても気持ちの良い場所だった。
僕は自分のお店を、洗練されたギャラリーのような場所というよりは、来てくれる人にちょっとした読書会や勉強会、あるいはポップアップでの小商いを開いてもらえるような、そんな文化生成の場所としていきたい想いを強く持っている。弘明寺という、横浜の中心部からの距離感が白楽とほぼ同程度で、さらに白楽と同じく活発な商店街のあるまち(白楽には戦後の闇市を発祥とする「六角橋商店街」という横浜で有名な商店街がある)で「小商い」の土壌をつくりあげてこられた神永さんのお力の借りられるというのは、ま僕にとって渡りに船だった。
そしてもう一つ、重要なことがある。
もともと僕は数年前まで「まちづくり」といったジャンルにあまり強い関心を持っていなかったのだけれど、一昨年にPLANETSから刊行した『2020年代のまちづくり』という論集の編集を担当する中で、かなり関心の度合いが高まっていった。
中でも、横浜を拠点とする設計事務所「オンデザイン」を主宰されている建築家の西田司さんへのインタビューがかなり自分としても価値観を変えられるもので、そのテーマがまさに「小商い」だったのだ。特定の技能に関するずば抜けたプロフェッショナルや「まちづくり」の専門家ではなく、専業ではない住民たちがちょっとした好奇心や趣味の延長で、「余暇(レクリエーション)」として「小商い」を営むことで、まちの文化的多様性、そして結果として人びとの「Public」に対する意識も高まっていくという議論は当時の僕にとっては目からウロコで、そのとき初めて「編集の仕事をしつつ、傍らでなにか小商いをやってみるのもありかもしれない」とうっすら思うようになったのだ。
そして、神永さんはもともとこのオンデザインの出身で、なおかつそのインタビュー記事でも言及されていた白楽の「まちのような国際学生寮」の設計にも関わられていたというのだ。これには勝手ながら運命めいたものを感じてしまい、ぜひ何としてもお願いしたいという気持ちになった。
というわけで、他にも何人か興味を示してくださる方々とお話し、どの方もとても素晴らしいバイブスや実績をお持ちの方ばかりだったのでとても、とても悩んだのだけれど、神永さんにお願いすることに決めた。心強いパートナーに引き受けていただけて、シンプルにとても嬉しい。
ちなみに神永さんとはもともと一面識もなかったのだけれど、先週の「制作記」でも触れた、横浜在住のデザイナー/ファシリテーターの押田一平さんが引き合わせてくださった。あらためて深い感謝。さらにはAKINAI GARDEN STUDIOは、同じく横浜在住で、ここ数年さまざまにお世話になっている瀬尾浩二郎さんの主宰する「ニューQ」という会社の新オフィスの設計も手がけられていたとのことで、たまたま昨年取材しに行って素敵だなと思っていたこともあり、その点でも勝手に嬉しくなっていた。

そして、今週はもう一つ、しっかり書き残しておかなければいけない大きな出来事があった。
実は木曜から今日まで、韓国のソウルに、独立系書店文化のリサーチに行っていたのだ。何を隠そう、いまこの記事は、成田から横浜に帰る高速バスの中で書いている。韓国は近年とても独立系書店が活発で、10年近く前にはなるがそのムーヴメントを丹念に取材して書かれた素晴らしい本も出ている。僕も書店を始めるにあたって、一度しっかり自分の目でその活況ぶりを見てみたいと考え、思い切って3泊4日(フルで使えたのは2日)のリサーチ旅行に出かけたのだ。
結果、計11店舗の独立系書店を訪れ、話を聞いてきた。本来、今週は後半はほぼソウルだったのでそっちの話を詳しく書くべきなのだけれど、神永さんの紹介を書き始めたら思いのほか筆が進んでしまい、ここからソウルのレポートも書いていたら盛り盛りになってしまいそうなので、そちらは番外編として週半ばにあらためて書こうと思う。
ちなみに、ソウルでどんな書店をたずねたのか、そこでどう感じたのかは、簡略なものはinstagramのストーリーに都度アップしていたので、もしよければ先にそちらだけでも見てもらえたら嬉しい。プロフィールにハイライトをつくって固定してあります(49投稿もあったけれど)。