アツ、20歳。麻雀修行に明け暮れる。
「麻雀 牡丹」と書かれたドアを開けると、エプロン姿のスタッフ達の視線が僕に集まった。
店内ではフリー卓が2つ稼働していた。
いらっしゃい、初めてですか?
と、立番のお兄さんが笑顔でおしぼりを渡して来た。
アツ:スタッフ募集中の紙を見て入ったんですが…
立ち番のお兄さん:あ、じゃあこちらに座ってちょっとお待ち下さい。
待ち席は丁度卓が見える位置だった。
店長さんは卓に入っているとのことだが、誰だろう?
皆私服でお客さんに見える。
ソファに腰掛けると、背中を向けた席の茶髪のお兄さんが「ちょっと待っててね〜今オーラスだから」と。
そして目を疑う瞬間が訪れる。
忘れもしない、ラス目のその背中がリーチを打ち、シャンポンの中をツモってトップまで突き抜けてしまった。
衝撃的にも程がある8000・16000。
漫画かよ!!!
この一連の物語にはもちろんフィクションもあるが誓って言う、この四暗刻は事実だ。
店長さん:あ、祝儀は結構ですハイ、点棒だけで。…ハイ、ゲーム代頂きました、ありがとうございます。
席を立ってTさんにゲーム代を渡し、僕に笑顔を向けたマスター、まだ35にもなっていないだろう若さのその人がオーナー店長のMさんだった。
オシャレメガネにサマーベストとジーンズというカジュアルウェアで、じゃあ面接しよっかと軽いノリで僕を奥へ招く。
話をするとやはり僕と同郷だった。プロではないがこの春から麻雀講師も始めて忙しくなり、中々店に出られないのでスタッフを募集しているとのことだった。
僕はメンバーの経験はないがフリーは打ち慣れてると言ったら、早速給料等の条件を提示され即採用が決まった。
それにしてもこの店はカラい店だった。
何しろ同僚が強い。特に早番が強すぎる。
後にプロになり女流のオープンタイトルを獲得したIさん、後に就職した会社に内緒でプロになり雑誌にちょろっと出たのが上司にバレてクビになってしまったTさん、自称本業博徒・副業塾講師のHさん。
遅番も中々で、この業界30年以上のベテランOさん、バイトでS大エリート学部のA君が強かった。
唯一「ママ」的なオバちゃんのSさんは客寄せ担当で、麻雀は弱かった(殆ど打たないが)。
お客さんも腕達者な方が多く、地元の環境のヌルさを思い知らされた。
僕はこの店での麻雀修行(主に後ろ見だが)に没頭し、実感できるほどメキメキと強くなれた。
打つだけではダメだ、と麻雀本を読みネットの情報もたくさん吸収した。
そしてK子に新しい寄生相手ができたときき地元に戻るまでの1年間、ほぼ無休で麻雀に触れ続けた。
ちなみに給料は毎月殆ど残らなかった。
居候で家賃を浮かせられて本当に良かった。
(・A・)< いよいよアングラ話も出てくる「帰省篇」へ続く!