アツ20歳。地元を出る。
在学中の僕が麻雀が弱かったのは、ある意味幸運だった。
2年生の冬休みまでに貯金を雀荘で使い果たし、最後の三学期はマジメに勉強しバイトで金を貯められたからだ。
僕は無事卒業要件を満たし、地元企業に内定ももらった。
卒業式後に最後の麻雀サークルの集まりを終え、地元に残るヤツはまた集まろうと笑い合って一旦解散、夕方からクラスの飲み会へ。
そこで女の子に声をかけられた。
中退した麻雀サークルのメンバーBの元カノのK子だ。かなりデキ上がっている。
お互い地元就職で会社が近いねーなんて話やBに関する下ネタ話などで盛り上がっていると、顔を近づけてきてこう言ってきた。
K子:アタシ本当はアツが好きでさぁ、アツと仲いいBに相談してるうちにBにコクられて付き合ったんだけど、ホントはアツと付き合いたかったんだよねぇ〜
正直驚いた。
アイちゃんとの失恋以降、女の子に感度が上がらなかった僕には全くわからなかった。
アツ:マジ?全然知らんかった。バレンタインにでも言ってくれれば良かったのに笑
K子:ねー、だから今言おうかなーと思って。よかったらつき合ってよ!
これが地獄の入口になろうとはこの時思いもしなかった。
元々気さくに話せる間柄で、酔った勢いの軽いノリでOKと返事をしてしまったが、いざつき合うと束縛と思い込みの激しい子で週イチ雀荘へ行くのも浮気を疑われ、平日は職場の隣のコンビニで僕の帰りを待つ毎日。
6月の後半には僕は生活に支障を来すほど精神的に参ってしまい、別れ話を切り出して逆に追い詰められる最悪の展開に。
体重が5kgほど落ち、不眠にもなった。
仕事はわずか3ヶ月で退職してしまった。
人生で最も辛い3ヶ月だった。
K子から、地元からとにかく離れなくてはと、着替えをワンセットだけ持ち形だけのリクルートスーツ姿で何の計画もなく新幹線で飛び出した。
親にだけ「S市へ新しい仕事をしに行く、K子が家に凸してくるかもしれないが東京に行ったと嘘をついておいてくれ」と伝えた。
S市は就職氷河期の当時、新幹線一本で行ける圏内では唯一好況の気配が出始めていた地方都市だった。
僕には少し歳の離れた兄貴がいて、S市の四大を出てそのまま現地に就職していたので、仕事が決まるまで居候させてもらう算段だった。
陽が少し傾きかけてきた頃、到着したS駅を降りてまずは少し離れた市役所へ住民票を移しに向かおうと考えた。
バス停近くにフリー雀荘の看板があった。
「スタッフ募集中」の貼り紙のついた看板を立ち止まって眺める。
連絡先と店長の名前が併記されていたが、その名前を見て、ん?となった。
僕の地元の隣市の特有の苗字なのである。
思わずビルのエレベーターのボタンを押してしまう。
最上階のその店へ向かうエレベーターのように、僕の気持ちも高まっていくのを感じた。
( ´Д`)< 今後の人生を決めた出会いがそこに。麻雀修行篇、続く。