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よく旅をして、よく言葉を残す

「今まで、いろんなところに行ったと思いません?」

飽きることなくスマホを眺めながら、突然そんな言葉を呟く。
まあ確かに、いろんなところに行った…それには同意。
うんうん。
画面に夢中でこちらなんて見ていないだろうが、しみじみと頷いておこう。

「え、無視です?」
「無視なんかしてない。ちゃんと頷いた。」
「見えないですってそんなの。言葉にしなきゃ分かんないですよ。」
「それはそう。」

あまり口数の多い方ではない自分と、1いれると10出てくるこの後輩と。
出会いから今まで、西へ東へ津々浦々。旅を沢山してきた。
このくだらない会話もどれくらい積み上げたのだろう。
それに行く先々でなかなか面白い事件も起こった。あれとか、これとか。
本当に色々…だというのになぜか今、パッと何かが思いつかない。むむ?
思ったより、歳、取ってるのかな、俺。いやいやそんなはずは…。

「…」

頭の中で浮かんでは消えてしまう、きらめいた思い出は掴む前に消えてしまう。
絶対、大したことじゃなかったはずなのに。
一生忘れられないなと思ったはずなのに。
時間がたつにつれて、何でもなくなってしまうような感覚。

寂しい。

「儚い。この世は…つかみどころのない夢のようなのだ。泡沫の夢。」
「え、何。突然。反応しにくいポエムはやめてください。寒い。暖房付けて!」
「そこまで言わなくても良いじゃん。
ただ旅の感動とか…なんかどんどん薄れていくなぁ~てセンチメンタルに浸っていただけですが?」
「前後関係を吹っ飛ばしすぎポエムですよそれ。
でもまあ何か形に残しておかないとますますじゃないですか?」

先ほどからとにかくお厳しいお言葉どうも。
こちらの方が年上なのに、容赦が年々なくなっている気がするのはきっと気のせいじゃない。

「あっ旅行記でも書いたらいいと思いますよ。」

それは突然の思い付き。
名案だとでも言うようににこっと笑うが、こちらとしてはいきなりすぎる。

「旅行記?」
「そうそう。なんか最近そういう本を読んで…先輩よりは考えられた文章と写真が綺麗だったんです。」
「はあ、考えなしですいませんねぇ。てか、そんなの書いたことないけど。」
「あはは夏休みの絵日記みたいなのでいいんですよぉ。そんな感じで二言三言さらさら~って。面白いですよ!くだらないポエムで。」
「く、くだらないポエム…」
「そのために準備をしないとですね!早速次行く場所を決めて、旅行記を書きましょう!人生はまだまだ面白くできるチャンスに溢れてる!最高じゃん!善は急げ!あははっ!」

あれやこれやと後輩は大盛り上がり。いつも通り置いてけぼりの俺。
え、本気?

そうして本当になんとなく、思い付きと勢いだけで旅行日記を書くことになったのだった。
起こったことを、書くだけ。それぐらいの言葉の積み重ね。

これはそういった話である。


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