転生したら「女神様」のパシりだった件 その十二
姫草は数日間
「確かに昔は荒れていました。しかし、神の加護のおかげで、今は真面目にやっています」
とブログを、日に何回もアップしていた。
そこへ、連絡が来た。
ロココ屋敷が火事になった。
燃え盛る炎は、屋敷に隣接している、他人の家も三件、全焼させてしまった。
死傷者がいなくて幸いだった。
放火だと騒いでいた姫草だったが、原因は、養蚕のスペースを照らしていたランプからの失火だと分かった。
火災の場合、他人の家を延焼させてしまっても、その損害賠償を発火元がする強制力や義務はない。
しかし、こんな村社会の田舎で、何の賠償もしなかったなら、まともには暮らしていけなくなる。
ロココ屋敷には、火災保険がかかっていたが、大した額は降りなかった。
元々は安く手に入れた家だ。
延焼させてしまった三件の補償をすると、数千万円になった。
これから売るはずだった「スターター・キット」も「ビジネス・マニュアル」も、在庫は全て燃えてしまった。
タイミング悪く、この火事はテレビで報道された。
島民からの白眼視の中、何とか損害賠償のお金を払い、焼け跡の片付けを業者に頼み、次に姫草は
「わたしはオオゲツヒメの生まれ変わり」
とブログにアップし始めた。
アマテラスだとか言ってる時期もあったが、火事により不死鳥のように甦った、新しい覚醒を得た、蚕を生んだ女神であると言い出した。
そして、残されたスピ御殿で、再び養蚕をすると宣言している。
椿寺の方からは、依然として無視されている。
高額のお布施をチラつかせているが、見返りはなさそうだ。
そして、この辺りから、炎上ではなく、元・信者が水面下で集まっていた。
姫草を詐欺で、集団訴訟すると発表した。
「宙の舟」はもう、おしまいも同然だった。
この時に、残った資産を抱いて、本土へ逃げていれば良かったのだ。
しかし、姫草は「クラウドファンディング」と称して、高額融資を信者から募った。
が、金を出す人間はいなかった。
一口百万円と、高額過ぎたからだ。
そして、島に移住したいと役所に来た人間で、姫草の信者だと分かった者は転居を断られた。
シングルマザー、前の居住地で何らかの社会補償を受けていた者、離婚はしていないが夫との移住ではない者。
何だかんだと理由をつけて、断られた。
仕事がない上に、農業や漁業をやる訳でもなさそうで、そのくせ、生活保護などはちゃっかり貰おうとされても困る。
姫草を筆頭に、古参の信者達も焦り始めた。ビジネスのためにと融資を求めた銀行からは、けんもほろろに門前払いされた。
今まで暮らしていた信者の何人かは、母子手当てや障害年金を打ち切られて暮らしていけなくなり、ポツポツと目立たない形で、地元へ帰って行った。
姫草は、雇用を創出して島の経済を活性化するために、と食い下がったが、今の状態では無理だときっぱり言われた。
姫草に、まともな商売をするスキルも、担保する財産もないと判断されたのだ。
そして、私と佐伯は、佐伯の泊まる旅館にいた。
「古事記の神様の生まれ変わりねぇ。今までは、良い顧客だったから、見ないフリしてたけど、神を商売にするヤツだけは許せないね」
ノートパソコン三台、タブレットとスマホ数台を前に、スーツの上着ごと、佐伯は袖を捲った。
「何を始めるんです?」
「まあ、見てて」
パキポキと、指を鳴らす佐伯の顔は、微笑んでいるが、目が怖い。
タン!
とキーボードを叩く音。
「終わり」の始まりだ。
続く
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