転生したら「女神様」のパシりだった件 その七
「おかいこ様」を崇める椿寺は、明治以前からある、神社と寺の習合の、典型的な寺だ。
明治になって政府は、寺と神社を徹底的に引き離そうとしたが、地方に行くと、まだその形態を残した寺や神社が残っている。寺なのに神楽を奉納するのも、習合の形の残りだ。
本殿には引き潮の時しか行けない。
そこで七年に一度、島の豊穣を祈って、様々な捧げ物をする。
姫草は、かなりの額をお布施したと自慢していた。
しかし、奉納舞や名前を書いた石灯篭などは断られた。
檀家がこぞって反対したからだ。
そうした噂が書き連ねてある、地域や地元の話題限定のネット掲示板を見ていると、佐伯が後ろから話しかけてきた。
「まだまだ。一億は資産握ってる。
一昨日は財務管理について相談された」
「ふんが」
タブレットをいじりつつ、オヤツ中の私は、ぞんざいに返事した。
「…………何食べてるの」
「ふぉれんじぴぃる」
「ひとつ、くれ……………………すっぱっ!
これ、すっぱい!砂糖浸けなのに!」
オレンジピールを噛んでいる佐伯を見て、私は笑った。
「寺の住職は独身。さて」
「女神様が狙ってるのは、その住職の息子。跡目は彼に決まってるが、今は目立たない。住職の手伝いをしてる。独身で既婚歴なし。優良物件って訳だ」
「私なら、『寺の跡継ぎの嫁』なんて狙わないで、アメリカに行きますね」
「は?」
「特に、カリフォルニアかシリコンバレー、それかデトロイト」
「な、何でアメリカ?」
「スニーカー買いに」
「…………訳が分からない」
私はタブレットの画面を切り替えて、画像を見せた。
「高機能スニーカーのブームがまた来てるんです。バブル末期に流行ったエアマックスとか。そうした物のデッドストックが、西海岸や南部の街にはある。それを買って日本で転売。日本製の高級腕時計や、小型テレビも狙い目です。もちろん、古物商の資格を取ってからですが」
画面を見ながら、佐伯はふうん、と感心した。
「あの人は、女神様の行動原理ですが。
何か見返したい者がある。
それと、勝ちたくて勝ちたくて、しょうがない。
相当、過去に誰かから、ひどい目に遭ったんでしょうけど」
佐伯は小さく笑って答えた。
「だから、逆らわない御しやすいタイプの人間ばかり集めている。
実際に必要なのは、弁護士なり税理士なり、法律や金の流れを管理してくれる人間なのに」
これは爆弾になるかもな、と言って、佐伯は側を離れた。
じゃ、とクリアファイルをかざして格好よく退場。
その時だった。
ほんの一瞬、クリアファイルで隠れた顔の右側だけ、口が縦に三つあるように見えた。
私も疲れてんのかしら。
地域の口コミ掲示板に戻ると、椿寺に、金だけ取られて何の見返りも貰えなかった姫草の話題を調べた。
今はまだ晩春。
夏の盆休みに、寺が動く。
続く
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