転生したら「女神様」のパシりだった件 その八
次のステージ(?)イベントで、新規事業の立ち上げを発表する、と姫草は息巻いていた。
ついに、MLM開始だ。
「まずは史生さんにも子会員になってもらわなくちゃ!」
と早速、勧誘されている。
会社組織ではなく、ここでも個人事業主扱いになる。
そうした概要の書類を見ながら、私は答えた。
「先生、『卸し』などの言葉は変えた方がいいです」
「はうっ?」
「『商品を介在している物は、無限連鎖講に当たらない』のが現法ですが、これでは古くさいし怪しいです。
一般会員はそのままで、上に行くと『ディストリビューター』『エリア・マネージャー』などの横文字にしましょう」
「…………く、詳しいわね」
MLMに関して、姫草のブレーンは年寄りなのだろう。
「私はもうちょっと、会員が増えたら参加します」
「…………そ、そう」
『入らない』などとは言っていない。だから姫草も命令出来ない。
『自作アクセサリー・洋服』の方も、規模は大幅に縮小したが健在だ。
何かを作って売りたいけれど、原資がない人間にはローン会社を紹介して借金させる。
原資はあってもノウハウがない人間には、立ち上げに詳しい人物を紹介する。
その仲介手数料として、信者の払ったお金から中抜きし、それは全部、姫草のポケットに入る。
これは佐伯のアドバイスだ。
イベントの前から、秘かに姫草がイライラしているのは知っていた。
観客が以前の三分の一まで減っている。
慌てて、ライブ中継という事で、オンラインでもチケットを売ったが、収支はとんとんだろう。
けれど、姫草はオンラインではなるべく、やりたくないのだ。
アンチが観るから。
そして、下手な歌や踊りを動画でばら蒔かれるのが嫌なのだ。
実際に、一部では笑い者になっている。
そして、オンラインの客は、実店舗に来ない。あれこれ買ってくれない。
ステージが始まり、観客は数分で飽きているのが分かる。
同じようなカラオケ。曲も構成も、時々はさまるMCも同じ。
歌って踊ってる人間だけが変わっている。
騒音の苦情が多くなったので、公民館や屋外でイベントが出来なくなったのも、姫草をイラつかせている。
本日の姫草女神は、「アラジン」。
たるんだ二の腕や、たるんだ腹が、砂漠のお姫様と言うより、「アジアのゲリラ」みたいな雰囲気を醸している。
姫草は歌う前に、仰々しく発表した。
「あらゆる悩みに合わせた、魂と愛の商品が完成しました!
そして、サクセスのための方法を、ここにいる皆さまだけに、お教えします!」
無給でサクラをやらされている古参の信者がワザとらしく、おおーっ!と叫ぶ。
小型の美顔器と専用ローション。高炭酸入浴剤のセット。ノン・シリコン・シャンプー。空気清浄器。オーガニックの菓子。絵の具セットみたいに、小さなアンプルが詰まったホメオパシーセット。サプリやスキンケアグッズ。
どれも、こうした商売用に、専門の業者が作っている品だ。
私なら、アメリカやベトナムへ、直接に買い付けに行くか作らせる。
国内のメーカーの品は高い。
一本三千円もするハンドクリームなんか、買う人はいない。
しかも、姫草の売り方はサイアクだ。
「ダイエットに効く」「肌が綺麗になる」などと、断定的な文言は絶対に避けなくてはならないのに。
「今なら『ビジネス・スターターキット』が三十万円です!ローンでも受け付けております!」
姫草が叫んでいる。
はあ、と私は深くため息をついた。
これは、ダメだろうな。
続く
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