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珈琲が持つ三つの世界
五感を使う世界と
不正解が無い十人十色な世界と
土地を語る世界。
"珈琲沼"にハマった理由が
この三つのコーヒーの側面だ。
五感を使う世界
冷凍庫からネルの眠りを解く準備を始めよう。
ネルドリップは王道のペーパーフィルタのような使い捨てではなく、綿起毛の布でできたフィルターのことを言う。乾燥させたらアウトで使い物にならないので冷凍庫で保存する。
ボウルに水を入れネルの解凍開始。眠りからゆっくりと起こしてあげよう。
その間に豆を計量。台湾発タイムモアC2 MAXの手挽きミルで豆をすり潰していく。
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眠りから覚めたばかりのネルドリップの水分をタオルに吸収させて、挽いた豆を入れる。
沸かしておいたお湯で、ネルに注ぐポット、加えて片口陶器、マグカップを軽く温めるためにお湯を注ぐ。
準備はOK。
片口陶器から湯を捨てて、ネルを右手、ポットを左手に一呼吸おく。挽いた豆の香り、濾す前の緊張感のある瞬間だ。(触覚)
一滴湯をネルに通し始めたら、あとはその時の流れに身を任せてポットのお湯を注いでいく。
抽出液がポタポタとフィルターから片口陶器に滴り落ちる音に耳を澄ませる。(聴覚)
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(長野県、益田勉氏の作品)
同時に挽いた豆がお湯で酸化する様子に集中する。(視覚)
抽出が終われば、マグのお湯を捨てて片口陶器からマグへ珈琲を注ぐ。
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マグを手に取り珈琲の香りをまず。(嗅覚)
そして味見する。よし。(味覚)
今日の一杯のコーヒーの完成だ。
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五感をフルに使う動作は瞑想という名の集中。
もちろん毎日、思うように珈琲を淹れられるわけではなく、その日の精神と身体面の状況を測る指標になり、生きているという実感となっている。
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不正解が無い十人十色世界
あるコーヒーは私にとっては美味しいと思っても、他の人には美味しいと感じないかもしれないというのはザラにある。
コーヒーにはこれが美味しいという一つ正解があるわけではない。
人の数だけ美味しいが存在するのだ。
不正解も正解もその人にしか無くて、全ての人に共通する不正解も正解も無い。
ただ珈琲が好きで嗜んでいる。たったそれだけが同じなのだ。それがいい。
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土地を語る世界
珈琲の味は精製・焙煎・抽出のそれぞれの過程の条件の組み合わせが無数に存在して、生み出される。
それでも味の決め手になるのは、その珈琲豆の生産地である。
どこの国のどの地域のどの位置でできたか。
同じ国でも地域が違えば味は変わる。
種類の違いでも味はもちろん変わる。
どんな人がどんな想いで育てるかでも珈琲豆の味は変わるという。
色んな産地の珈琲を選んでその土地を味わう。
たとえ遠い未踏の異国の地でも、その珈琲一杯でその土地を踏み入れたような、不思議な感覚になる。
五感と十人十色と土地。
毎日この三要素を感じ、深めながら珈琲を、今日も作る。