月への移住生活について考えてみた
月は、火星に向かうための中継基地や宇宙空間で人類が生活するための技術実証の場として、注目を集めている。
2040年の月には1千人が住み、年間1万人が訪れることになる。このような世界観の実現を目指している企業は既に登場しており、多種多様な事業機会が創出されるであろう。
このような背景から、注目したいテーマなので、自分なりの理解を以下に整理した。
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1.歴史的に人類はどこまでやってきたのか?
▷ 1969年~ アポロ計画
1969年に人類初の月面着陸をアメリカのアポロ11号が実現した。アポロ計画が終了した1972年までに6回の月面到達を経験しており、最長滞在期間は3日間を記録している。
▷ 1998年~ 国際宇宙ステーション
1998年からアメリカ、カナダ、ロシア、日本、欧州宇宙機関(ESA)が共同で運用しており、放射線や無重力状態が人体に与える影響の調査、食料として野菜(レタスなど)を育てる研究など、人が宇宙で活動していくための基礎的な研究が続けられている。
国際宇宙ステーション(ISS)で得られた知見を用いて、月よりも遠い火星など(deep space)を目指す構想も発表されている。この中で月は、より遠くの宇宙に向かうための中継基地や、宇宙空間で人類が生活するための技術実証の場として注目が集まっている。
※ISSの運用終了後は太平洋に落下させ、処分される(宇宙デブリ問題も深刻化しており、処分方法の考慮も無視できない)。
▷ 2020年~ アルテミス計画
NASAが提案する月面探査プログラム(アルテミス計画)では、月面に人類を送り、ゲートウェイ計画(月周回有人拠点)などを通じて、月に物資を運び、月面拠点を建設、月での人類の持続的な活動を目指している。
■ 2020年10月
アメリカ、カナダ、イギリス、イタリア、ルクセンブルク、アラブ首長国連邦、オーストラリア、日本の8か国が「すべての活動は平和目的のために行われる」ことなどをはじめとした、アルテミス合意にサイン。
G20に名を連ねる6カ国(アメリカ、カナダ、イギリス、イタリア、オーストラリア、日本)+2か国(アラブ首長国連邦、ルクセンブルク)が参画した構図になっている。
■ 2022年
アルテミス1号を打ち上げ。6日間の月周回軌道の周回を経て、地球帰還までの安全性検証を目的に、アメリカ(フロリダ州・ケネディ宇宙センター)から無人のアルテミス1号が打ち上げられ、2022年12月に帰還。
■ 2025年9月頃 ←イマココ!
アルテミス2号の打ち上げを予定。宇宙飛行士4人を月近傍を通過する旅に送り込むことを目指しているが、地上装置や大気圏再突入時の耐熱シールドにも課題があり、難航している。
■ 2026年以降
アルテミス3号の打ち上げ を予定。北極付近からの発射を計画しているアルテミス3号についてNASAは、女性と有色人種を初めて月面着陸させるものになるとコメントしている。
■ 2028年以降
アルテミス4号の打ち上げを予定。月周回有人拠点ゲートウェイでの最初のミッションを実施予定。
2.技術的に月面に住むことはできるのか?
▷ 地球環境との違い
当然ながら、地球と月では住環境の前提が大きく異なる。月の重力は、地球の重力の6分の1であるから、歩くだけでも感覚が異なる。酸素量も違うので、呼吸はもとより、地球と同じように火を使うことも儘ならなない。地球のように天体全体を覆うような大規模な地磁場もないことから、放射線(月表面の放射線量は年間100~500ミリシーベルト)なども直接降り注ぐ。昼は120℃、夜は-170℃の温度差があり、非常に過酷な環境である。
▷ マリウス丘の地下空洞(住空間)
2007年に打ち上げられた日本の月探査衛星「かぐや」の観測データを詳しく分析した結果、地球の方に向いた場所にある火山地帯(マリウス丘)の地下に50kmにもなる巨大な空洞が存在することがわかっており、この空洞が数万人規模の居住空間になる可能性を秘めている(空洞内部の温度推定は約-20℃)。
空洞内は気密性が高いので、出入り口を塞ぎ、気圧と温度を調節できれば、人が活動できる宇宙ステーションとして機能する。
この地下空洞は、火山の溶岩が溶けた後にできた空洞とみられていて、35億年前に誕生したと推定されている(地下空洞は地球にも存在する)。
▷ 月の水資源
地下の岩石が水を含んでいる可能性も指摘されており、岩石から水を取り出す技術が確立すれば、生活用水にできるかもしれない。また、水を電気分解して得られる水素や酸素はロケットや探査ローバーの燃料にもなる。
宇宙資源の扱いについては、2021年に「宇宙資源の探査及び開発に関する事業活動の促進に関する法律」が定めれるなど法整備も進められている。
▷ 月での食事
月は地球からの距離が最も近い天体だが、38万kmとその距離は決して短いとは言えない。輸送コストは、約1億円/kgとも考えられており、地球から食事を輸送することは非常に効率が悪い。そのため、月産月消を目指すことになる。例えば、ミドリムシを用いた人工肉を現地で培養・加工する技術、月面農法(水耕栽培など)の確立など、包装なども含め、様々な分野での研究開発が求められる。
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3.将来的にどこへ向かうのか?
▷ 火星について
有人宇宙活動の最終的な目的地は、地球に最も近い惑星である火星とされている。火星の質量は地球の10分の1。自転の周期は、地球とほぼ同じ(24時間40分)。月よりも豊富に水が存在するとみられ、人類が生存してくためには月よりも適していると考えられる。
火星への移住ついては、2030年代の有人火星探査を目指す計画をNASAが発表しているほか、アラブ首長国連邦も100年計画として火星移住計画を打ち出している。民間からも、アメリカの宇宙開発ベンチャー「スペースX」など、火星移住を目指す企業が現れている。