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京都南部で住民置き去り、大企業優先の大型開発     ・・・・・大型開発より、暮らし優先に・・・・・ 

本稿は「京都自治研究 第14号」(京都自治問題研究所報)に掲載されたものである。

はじめに

 新名神高速道路の城陽J C T以東は24年度開通、八幡京田辺J C T以西は27年度開通の見込みである。新名神全線開通、及び、北陸新幹線着工に向け、京都南部での大型開発が目白押しだ。国交省出身官僚が京都府知事となり2期目を迎え、国の出先機関と化した京都府は、コロナ対策に財政と体制を全集中しなければならないこの時に、大型開発をヒートアップさせている。西脇知事になって策定された京都府総合計画のエリア構想で、京都南部を「新名神を活かす『高次人流・物流』構想」「スマートけいはんな広域連携構想」と位置付けて開発を推進している。
 さらに22年4月の知事選挙で西脇知事が「府南部大環状構想」を公約に掲げた。具体の内容は示されていないが高速道路などの交通網をつなげて京都南部全体の開発をさらに進めようとするものだろう。知事2期目は、今後さらなる京都南部における大型開発を推進しようとするであろう。
 建設費が2.1兆円(大幅増額見込み)の北陸新幹線大阪延伸は、880万㎥もの建設残土についての行き場も運搬ルートも明らかでない。京都南部では、トンネル区間なのか、あかり区間なのかも明確でなく、ルートも「松井山手駅」の位置も不明である。不安定な地層の宇治川、木津川の地下を通す可能性も高く、京都の産業や文化を支えてきた地下水枯渇の懸念もある。また宇治川断層など多くの断層を新幹線トンネルが横切ることになり危険である。京都駅周辺は、鉄道では初の大深度地下で、地下10数階にもなる巨大な京都駅を築造しようとするものであり、まさに無駄で環境破壊の北陸新幹線といえる。

 京都・新大阪間のルートを、松井山手周辺を中間駅とする南回りルートを決めた理由について与党P Tは「開発潜在力」とした。さらに、大阪や関空と学研都市などを結び、開発を促進するための新幹線だとしている。つまり、北陸新幹線大阪延伸によって京都南部をさらに開発しようとしているのだ。

 京都南部における大型開発が目白押しだが、その共通点は、行政によって特別に規制を緩和して行われる、住民置き去り、大手デベロッパーのための開発だという点だ。しかも京都南部における開発のボリュームが巨大で、開発そのものの負担だけでなく、開発に伴うインフラ整備と後年の維持コストが、自治体と住民にのしかかることになってくる。また、高速道路網の結節点である京都南部全域が、物流拠点化され東京資本のロジスティック産業が集中的に進出し、さらに郊外店舗・飲食店やコンビニなど東京商業資本に席巻され、地域の消費と経済がストロー現象により吸い上げられていく懸念は拭えない。

1、京都南部における大型開発の特徴

 まず、京都南部で繰り広げられている大型開発の特徴について、おもだったいくつかについて、それぞれ見ていこう。

ア、住民置き去り、大手企業のためのけいはんな学研都市開発

 けいはんな学研都市はこの間、住宅需要が低減する中で新たなクラスター開発は停まっていた。そうした時に、近鉄グループホールディングスが19年以降の「新グループ経営計画」において「南田辺、狛田地区の保有土地の約100haの開発を検討」と明記し、京阪電鉄不動産も「学研精華下狛プロジェクト土地利用計画」をすすめる方針を確立した。土地所有者側の意向に沿って、京都府は「関西文化学術研究都市の建設に関する計画」を変更し、南田辺西、狛田西、狛田東のエリアの用途を産業立地に変更し、クラスター開発を再始動させた。

 さらに京都府は「南田辺・狛田地区整備検討委員会」を関係首長・学者・近鉄不動産・京阪電鉄不動産を委員として発足させ、20年3月に「調査報告書」をまとめた。同報告書で、京田辺市の南田辺西60ha(府有地)、狛田西85ha(近鉄不動産)、狛田東50ha(京阪電鉄不動産)について、「インフラなどの基盤整備整備を2028年度末頃までに順次、完了をめざす」とし、目標・スケジュールで「順次、産業施設などの立地を進め、2031年頃までに拠点形成をめざす」とした。

 けいはんな学研都市について、京都府、精華町、木津川市、京田辺市が21年4月スーパーシティ特区申請をした。この時の特区申請した内容は①医療データの取得・活用について、医療機関が行う本人通知などの手続き義務の要件緩和、②海外日本人研究者への研究助成の柔軟化、③自動バレーパーキングシステムを利用する車輌の公道走行に関する規制緩和、であった。竹中平蔵氏など有識者会議からスーパーシティは規制緩和する特区を申請するものであり「大胆な規制緩和の申請が乏しかった」と圧力がかかり、国は各申請者に対し再提案を求めた。

 京都府などは21年10月に再申請した。再提出した内容は「健康・生活・医療データ」を収集し、最適医療の提供、新たな医療機器・医薬品の提供に活用するというものである。行政が持つ個人情報を本人同意なしに企業などに提供し企業が儲け口に使う内容ではないか。まさに個人情報を企業活動に利用する規制緩和が内容であった。結果は国に採用されなかったものの、京都府などのスーパーシティでの目的が、個人情報を企業活動に活かすための開発であることが一層明白になった。

 けいはんな学研都市における、府有地など300haを「グリーンフィールド」として開発する計画であるが、これは、次世代の食の開発、食を通じた健康の増進などとして「フードテックや食糧の新産業」を興こそうという内容だ。フードテック【食品(food)×技術(technology)】は、ITを使った新しい農業ビジネスや代替食品・人工肉等をすすめる新産業のことである。既存製造業の海外移転・産業空洞化を進め、「日本人の食糧」の生産を海外に依存し、日本農業の根幹を破壊しておきながら、その一方で新たな資本の儲け口として「食糧新産業」を創り出そうとしている。

 京田辺市は、けいはんな学研都市開発の関連道路の負担として中央線13.5億円、東西線21.6億円を明示している。

 学研木津東地区 (約 55.4ha)は、03年に都市再生機構の土地区画整理事業施行予定区域から除外され、18年 9 月に FSJ ホールディングス(城陽市中芦原)が都市再生機構の保有していた土地を全て取得した。22年 2 月27 日「木津東地区土地区画整理準備組合」が設立された。22年3月、事業化検討パートナーに大林組、奥村組、西松建設、日本エスコン、フジタ西日本開発事業部を選定し、今後パートナーが決定されることになる。

 土地利用のゾーニング(素案)をはじめとした「事業化検討プラン」で、土地の用途を、住宅用地から産業用地に変更した。まちづくり基本構想によると、総事業費は95億円、保留地割合が48.7%、減歩60〜80%で事業化されることになった。事業費縮減へ「安価な残土搬出先の確保」とされている。残土(砂利)採取と搬出についてどうなるのか、保留地の処分計画がどうなるのか、また、都市計画道路奈良加茂線や木津東西線の築造における自治体の事業費負担がどうなるのか今後の懸念材料ではないだろうか。

 さらに知事は、けいはんな学研都市を大阪・関西万博のサテライト会場に使うことを目指し早期に推進しようとしている。

イ、規制緩和で企業のためのJ R向日町駅周辺の再開発

 京都府は、JR向日町駅周辺地区再開発の組合設立を認可した。J R西日本不動産を事業協力者として進めるもので、J R向日町駅の駅東用地などに36階330戸、高さ130Mのタワーマンション、商業施設や橋上駅などを進めるもので、総事業費約187億円にのぼる。この再開発のために京都府と向日市は、容積率を300%から750%に引き上げ、高さ制限を緩和するという規制緩和が行なった。この再開発に約42億円の税金が投入されることになる。

 JR向日町駅周辺地区再開発事業の収支計画によると事業総額186億9千万円で、保留床処分金9億33百万円となっている。保留床処分計画が未定であるため、デベロッパーがどの部分の床を入手しどれだけの利益があがるのか未だ明らかにされていない。莫大な税金投入によってデベロッパーの儲けが如何程なのか明確にすべきだろう。

 また、J R向日町駅の東側で、日本電産が2000億円を投資し、第二本社ビルなど4棟の研究棟やオフィスビル(延床面積15万5000平方メートル)を30年までに建設する「向日市森本東部地区土地区画整理事業」が進められている。J R向日町駅には駅東口がないのであるから、JR向日町駅周辺地区再開発は、日本電産第二本社ビルなどに通じる駅東の玄関口を設ける再開発でもある。

 まさに、企業の開発のために規制緩和がされ、多額の税金投入が行われようとしている。

ウ、城陽東部丘陵地開発 違法行為の追認、交通渋滞や下流の水害が心配

 420haに及ぶ城陽市東部丘陵地で1959年から始まった山砂利採取は、かつて近畿の砂利供給の中心を担ってきた。土砂流出防備保安林を無許可で伐採し、山砂利を採取し、さらにその埋め戻しに産廃・残土などを投入して地下水汚染も引き起こしてきた。かつて京都府は搬入された再生土10トンダンプ16300台分(16万トン)のうち3000台分を産業廃棄物であると認定し、不法産廃の全量撤去を要求し、保安林を復元すべきであるとしてきた。また、地下水水質監視などを行政方針として確立してきた。ところが府・城陽市が一体で、違法開発を追認し、復元もしていない保安林を行政の手で解除し、水銀やヒ素などの汚染物質が検出されてきたにもかかわらず、地下水水質監視井戸を閉鎖するなど、行政方針を転換し住民の安全対策に必要な施策を大きく後退させた。


 城陽市東部丘陵地にある土砂流出防備保安林83.7haのうち、45.8haが違法に伐採された。土砂流出防備保安林とは「下流に重要な保全対象がある地域で土砂流出の著しい地域や崩壊、流出のおそれがある区域において、林木及び地表植生その他の地被物の直接間接の作用によって、林地の表面侵食及び崩壊による土砂の流出を防止」するものであり、伐採してしまうと下流が危険であることは明白で、安全対策を講じない安易な保安林解除は許されない。現状は多くが草っ原状態に回復されたに過ぎず、森林に復元には程遠い状態である。しかも、民間企業が行った違法伐採を行政当局の城陽市が保安林解除の手続きを進めていることも問題である。

 下流の古川は未改修で内水氾濫常習地域である。12年の南部豪雨災害では床上浸水159戸など546戸の浸水被害が発生した。京都府が古川の「床上浸水対策特別緊急事業」として大規模な改修事業をおこなっている。床上浸水を防ぐための工事であり、床下浸水を防ぐことはできず、水害を根絶するための改修ではない。

 古川流域は、木津川の外水氾濫、古川の内水氾濫が起きる可能性のある地域である。そのため、城陽市のおおむねJ Rより西の地域(市街地の3分の2程度)が浸水想定区域であり、その地域全体を「早期立退避難区域」に指定し、ほぼ全ての避難所を廃止してしまった。そして、水害時には「東部の高台まで逃げろ」というだけで、避難の方法や対策は講じられていない。危険な天井川である長谷川や青谷川の整備・改修も進んでいない。にもかかわらず、調整池設置を条件にして、アウトレットモールや物流拠点の開発が推進している。

 24年開業予定の城陽プレミアムアウトレットモールは、敷地面積=約254,000m²、店舗面積=約30,000m² 、店舗数=約150店舗、駐車場台数(従業員用含む) 約4,000台で、神戸・三田や竜王などのアウトレットモールの規模を凌ぐ関西最大級の規模である。

 神戸・三田や竜王アウトレットモール周辺での恒常的な交通渋滞は市民生活に多大な悪影響をもたらしている。城陽の開発予定地の付近は現在でも深刻な交通渋滞が恒常化している。先行事例でも明らかなようにアウトレットモールができれば交通公害で市民が苦しむ事になるにも関わらず、渋滞対策は「大規模小売店立地法」による今後の協議に委ねるとして、いまだに対策は示されていない。

 府立木津川運動公園の「北側区域整備」(19ha)について、京都府は「新名神高速道路等の広域的な道路ネットワークの整備や 大型商業施設の立地といった周辺環境の変化を踏まえ、南側区域と一体となって東部丘陵地及び山城地域の玄関口として、魅力溢れる都市公園を目指す」とし、「サウンディング型市場調査」を行い、進出を検討する企業の要求や意向を調査してきた。17企業・グループ から応募があり、「賑わい施設」やアウトドア事業やスポーツ施設などの意向・アイデアが出され、京都府は今後、P P P(官民連携)手法など民間参入をふくめ、開発・運営方法を決めていくことにしている。つまり公共用地を企業の営利活動に提供して、民間による設計・建設・運営も含めた開発を検討している。

 国道24号線「城陽井手木津川バイパス」を、東部丘陵線まで北進する道路建設計画があり、その計画と工事の進捗に合わせて、同バイパスと交する城陽東部丘陵地(山砂利跡)のゾーンを開発するとともに、白坂テクノパーク2期工事に着手することとしている。これらもまた、相当大きな面積の開発と見込まれる。

 城陽市東部丘陵地は「山砂利」の地層で、降った雨のほぼ全量が地下に浸透している現状である。その地域が、開発によってアスファルトとコンクリートで覆ってしまうのであるから、下流河川の破綻リスクが高まることは明確だ。調整池を多数設置して水害を防ぐとしているが、調整池は、時間差で洪水を流すことによってピークカットを行う機能の施設であり、降った雨の全量が下流に流れることになる。したがって調整池では、昨今繰り返されているような想定を超える大量の降雨があれば水害を防ぐことはできず、災害発生後においても延々と洪水が流れ続けることとなる。また、下流の長谷川や青谷川は、国道や鉄道の上を流れる危険な天井川でありながら管理も整備も全く不十分である。遊水地や堤防強化、内水排除の施設、田んぼダム、避難施設と避難計画など、古川流域における流域治水の具体化こそ優先させるべきだ。住民の命と暮らしの安全を優先させるなら、流域治水対策なしの大規模な開発は一旦立ち止まって見直すべきではないだろうか。

エ、宇治田原インター周辺に、インターチェンジ直結、大規模次世代物流施設

 城陽市と宇治田原町にまたがる宇治田原インターチェンジ付近一帯に巨大な物流拠点が開発されようとしている。

 「三菱地所、東急不動産、城陽東部開発有限責任事業組合、伊藤忠商事は、新名神高速道路の宇治田原IC(仮称)沿いに、日本初となるIC直結の次世代基幹物流施設を開発する。5棟総延べ55万5000㎡の物流施設と、ICから物流施設への直結型専用ランプウェイを整備する計画で、2026年ごろの完成を目指している。」 「青谷先行整備地区A街区(敷地面積11万9000㎡)には、三菱地所が1棟延べ27万7000㎡のマルチテナント型物流施設を建設する。設計・施工者は未定。同B街区(同8万6200㎡)と宇治田原町区域のIC北区域(同3万6500㎡)は、城陽東部開発有限責任事業組合と伊藤忠商事が基盤整備し、東急不動産が物流施設を整備する。B街区には3棟総延べ19万3000㎡、IC北区域には1棟延べ8万5000㎡を整備する。」「これらの物流施設は、完全自動運転トラックや隊列走行トラック、ダブル連結トラックなどの新しい物流システムに対応した次世代物流拠点とすべく検討を進めている。専用ランプウェイは三菱地所と東急不動産の共同事業として整備する。総延長は560mで、設計は三菱地所設計が担当、施工者は未定。」と「建設通信新聞(22年2月7日付け)」が報じた。

 これらの一部はすでに、「城陽市東部丘陵地まちづくり条例」による地元説明会が行われ、市は事業者との協定を締結した。調整池が建物と一体の箇所が多く、建設後も民間に管理を委ねることになり管理体制や事故の不安は拭えない。また下流の青谷川は水害を繰り返してきた天井川であり、アウトレット開発と同様に水害の懸念が拭えず、また、周辺道路の交通や渋滞への影響と具体的対策はなく、住民の理解と同意は得られない。京都府や城陽市、宇治田原町の行政による前のめりな開発推進姿勢は住民自治によって厳しくチェックしていかなければならない。

オ、宇治市や久御山町など 巨椋池の農地などに物流拠点や新市街地開発

 宇治市は22年4月27日開催の都市計画審議会で議決(共産議員は反対)し「都市計画マスタープラン」に「産業立地検討エリア」を新たに設定した。国道24号沿道の宇治市安田町鵜飼田(巨椋池地域)の農業振興地域に物流拠点(約49ha)を整備しようというもので、すでに大手企業が土地取得と開発に向けて動いている。また同マスタープランには新名神インターから中宇治地域への道路構想を明記された。日常的に渋滞している中宇治地区への車両の呼び込みは宇治市の生活環境をさらに悪化させることが懸念される。

 東京建物は、ブランド名「T-LOGI」(ティーロジ)を冠した物流施設を全国に展開しているが、伏見区横大路に「(仮称)T-LOGI京都伏見」(敷地1万1千平方メートルを22年夏に着工するとしている。

カ、各地で進む無数の開発計画 10年で500ha超

 京都南部で今後、概ね10年程度で進行する見込みの市街地開発計画をあげてみよう。京都南部で行われる市街地開発全体のボリュームの大きさを示す意味で列挙したい。(これら全てが、大企業の利益優先の市街地開発だという意味ではない。)

■城陽市東部丘陵地でアウトレットモール(27ha)、物流拠点など(41ha)、木津川運動公園北側区域整備(19ha)、白坂テクノパークの2期開発(面積など未定)。

■宇治田原町でインター北側物流拠点(2.6ha)、都市再生整備(26.9ha)、新市街地開発(47.5ha)、南区農振地域の解除(31ha)。

■久御山町で新市街地開発(41ha)。

■京田辺市で土地区画整理(15.3ha)、学研都市南田辺地区(27ha)。

■京田辺市・精華町にまたがる近鉄不動産(100ha)など。

■精華町で学研都市狛田地区(34ha)。

■木津川市で学研木津東地区(55.4ha)。

■宇治市で物流拠点開発、数十ha。

▶︎城陽市東部丘陵地は全体で420haであり、「先行整備」のアウトレット・物流拠点などに続いて市街地開発を順次推進。

▶︎市街地開発ではないが、南山城村での自然・環境を壊し、災害が懸念されるメガソーラー開発が進行中であり、また木津川市山城で一旦撤回された48haに及ぶ災害の危険性が否定できないメガソーラー開発計画が進められようとしている。また、京都南部での大規模開発に伴い発生する産廃や残土が起因の一つであろう、産業廃棄物や残土の無秩序な投棄が頻発している。

 このように、概ね 10 年間で市街化されることが予想される京都南部での市街地開発の面積は500ha を大きく上回ることになる。この規模は城陽市の宅地面積に匹敵するもので一つの自治体の市街地が新たにできるようなものだ。これだけのボリュームの市街地開発にかかる社会資本整備費と維持費の規模は莫大だ。

2、物流拠点の開発 生産拠点海外移転・産業空洞化と一体に

 京都府総合計画で「新名神を活かす『高次人流・物流』構想」と位置付けているように物流拠点の開発が南部開発の中心の一つである。

ア、日本物流の大動脈の一大結節点としての開発

 政府や財界は、新東名・新名神を日本物流の大動脈として位置づけ、後続トラックを無人にする「自動運転・連結トラック」のために六車線化を進めることとしており、すでに「大型連結トラック」の運行が新東名で始まっている。

 リーマンショック以降、日本企業の生産拠点海外移転は急進展し、日本企業の海外生産比率は15年には38.7%まで上がり、直近の19年は37.2%である。そしてアジアにおける生産拠点がこの間、急速に南下している。政府の港湾政策である「港湾中長期政策・PORT2030」で、南アジアから日本への物流航路のため、京浜・阪神の5港湾を国際コンテナ戦略港湾に位置付けし、コンテナ大型化や自動化のための大掛かりな港湾開発・整備を推進している。その国際コンテナ戦略港湾から3大都市圏への大動脈と位置付けられているのが新東名・新名神であり、新東名・新名神六車線化計画、大型連結トラックである。そのために東京圏、名古屋圏、阪神圏に高速道路網の結節点として物流拠点を整備しようとしている。

 そうした下で、これまで大阪湾ベイエリアに大集積していた物流拠点が内陸部の高速沿線に移動している。阪神圏では、城陽J C T、八幡京田辺J C T周辺が一大結節点である。新名神全線開通を前にして、城陽J C Tや八幡京田辺J C Tの周辺では、すでにロジスティック企業や、主要企業の物流センターの進出ラッシュとなっており、物流・倉庫の土地需要が急速に高まっている。

 「サプライチェーンの毀損」が社会問題となっており、トイレや給湯器をはじめとする住宅設備や建設資材などが入荷できず、多くの建設業者などが仕事もできない事態に陥っている。

 製造業の海外移転は、製造業の正社員雇用が減り、若者の就職口が少なくなっている大きな要因である。労働者・若者の正規雇用と賃金が落ち込みは、出生率低下の大きな要因にもなっている。

 今日の物流開発は、製造拠点の海外移転・国内の産業空洞化、グローバル・バリュー・ チェーン展開と一体に進められており、国内の産業空洞化に拍車をかけるものであ理、この構造からの転換こそが急務だ。

イ、物流開発で、消費者も経済も東京資本が吸い上げ


 今や大資本は、狭い意味での小売・卸売といった商業の範疇にとどまらず、生産、物流から小売まで総合的に事業展開している。そうした中で物流コスト縮減と総合化は、利益を増やす重要な要素だ。政府も「卸・小売連携による物流コストの縮減」を強調してきた。

 全国大手スーパーはネットスーパーや物流拠点展開に本腰を入れてきた。物流拠点を整備し、物流コストを縮減し、利益を拡大してきたのだ。

 19年10月、Amazonは「Amazon Robotics」を導入した新たな物流拠点「アマゾン京田辺FC(フルフィルメントセンター)」を京田辺市松井に開業した。ロボットが施設内を動き回る物流拠点としては、近畿エリアでは茨木に続く2施設目であり、延床面積約90,600㎡の大規模なものだ。

 大手商業資本は、宇治市大久保のイオンや六地蔵のイトーヨーカー堂の撤退に見られるように、消費者に近いところから商業施設を撤退し、より物流コストを縮減できるとともに広域の誘客が可能な郊外店舗・ロードサイド店舗を展開している。

 かつて、国が大型店出店規制を緩和し、行政が「大型店誘導エリア」を指定し、大型スーパーの市街地への進出を誘導・推進したもとで、地元商店街と商店が衰退し、地域の商店がなくなってきた。そして今、大型商業資本は、身勝手に大型店を市街地から相次いで撤退し、郊外・ロードサイドの超大型店を展開しているのだ。

 飲食店も同様で、大手資本の飲食店が、郊外・ロードサイドを中心に展開している。とりわけ京都南部でこうした傾向が顕著と言えるのではないだろうか。

 そうした中で、いわゆる「買物難民」が京都南部でも大きな社会問題となっている。地域での高齢化の影響も加わり、地方の鉄道路線やバス事業は利用が減少し、減便や路線廃止などなどが相次いでいる。コロナ禍の影響で、さらにバスや鉄道の減便と路線減少が進み、生活の足の確保は困難をきたし、「買物難民」問題が深刻化している。

 高速道路網と物流網の「整備」が進むことによって、地域の経済と消費者がストロー現象で東京資本・大資本に吸い上げられているといえる。

 前述のとおり、全国大手の物流資本の物流センターが京都南部に集中的に「整備」されてきた。

 大手物流資本は、単に宅急便や運送を請け負うのでなく、あらゆる産業の物流部門を手中に収めつつある。物流業界は今、「物流」のみにとどまらず、6つの機能(輸送や保管、包装、システム、流通加工、荷役)を総合管理する「ロジスティック」に進化している。大手資本が、サプライチェーン全体の屋台骨となる「モノが流れる効率的な仕組み」=ロジスティックを支配しつつある。日本における3大拠点圏が東京圏、中京圏、京阪神圏であり、京阪神における一大拠点が、城陽J C T・八幡京田辺J C Tの周辺地域と言える。
 京都の運送業は小規模事業者、中小企業が中心であり、しかも、運送に従事する労働者の低賃金・長時間労働は顕著で、人手不足が深刻である。全国大手のロジスティック資本が京都にどんどん進出をする中、京都における運動業の大手による寡占化が急速に進み、地元運送業者が悲鳴を上げている。さらに今、燃料油の高騰が追い打ちをかけている。

3、大型開発がもたらす自治体や住民へのしわ寄せ

 京都南部での大型開発がもたらす自治体や住民への影響は計り知れない。

ア、自治体財政を逼迫させる大型開発

 開発に伴う自治体の財政負担は甚大だ。城陽市の財政はどうなっているか。

 城陽市は、新名神城陽〜八幡京田辺間の開通に合わせ、城陽インター付近の土地区画整理事業(サンフォルテ城陽・19.8ha)とその周辺整備で、総事業費約40.7億円を投じ、それら負担によって財政が逼迫した。

 城陽市は18年2月、文化パルク城陽について、NTTファイナンス株式会社との間で、セール・アンド・リースバック契約を締結した。城陽市が文化パルク城陽を80億円で売却し、城陽市が25年借り受け100億円の賃料を支払うというものだ。セール・アンド・リースバックというのは、資産を売却したお金をを基金に積んで財政運営に回す仕組みだが、80億円で文化パルクを売却したにも関わらず、「城陽市未来まちづくり基金」の残高は、22年度末で18億4千万円にまで減少してしまう。基金はすでにそのほとんどを使ってしまい、今後は文化パルク城陽のリース代金、年間約4億円を支払い続けなければならないという状況になっている。

 城陽市が東部丘陵地開発のために新名神に沿って建設する「東部丘陵線」の建設費は、当初40億円の見込みだったが65億円に膨らんだ。さらに21年9月になって城陽市は、建設発生残土200万立方メートル(10トンダンプ約36万台分)の処分費用34億円が必要になったとの試算を発表した。その後、山砂利事業者に「処分」を委ねることによって4800万円で契約した城陽市は、安くついたと胸を張った。しかし城陽市が「処分」するとした「建設残土」は「山砂利の原石」であって有価物である。「建設残土の処分」というが、山砂利事業者に「山砂利の原石」を提供することは、実質的には山砂利を採取・販売し利益を上げることにほかならず、多くの批判があがっている。今後もさらなる増額が懸念されている。このように多額の道路建設経費、スマートインター設置やその周辺整備の費用と次々と開発関連経費を負担することになっている。

 市街地開発にともない、都市計画道路などの建設費や国道・府道等整備の自治体負担、インフラ整備と維持のための自治体負担は相当多額になる。。今後の京都南部の開発に伴う自治体負担については、ほとんど明らかにされていない。開発関連のは膨大になることは明確だ。

 これまでの学研都市開発は住宅用地がかなりのウエイトを占めていたので市町に開発協力金や後年度の住民税収入を見込むことができた。

 たとえば、精華町ではそうした資金を基金として蓄え活用してきたので、水道料金を低廉に抑えてきたが、近年その基金残高が低減し、水道料金、下水道料金の値上げが相次いでいる。

 今後のけいはんな学研都市開発は産業用地中心に変更されたので、そうした財源確保は難しい上、地元雇用が大きな企業進出が誘導されない限り大きな税収は期待できず、支出超過になる可能性は否めない。

 学研都市開発で人口が急激に増えたことによって木津川市の城山台小学校が55クラス、1800人超の日本一の超マンモス校になろうとしており、京田辺市でも小・中学校の教室不足・臨時増設が社会問題化している。

 下水道の整備にかかるコストも甚大だ。20年9月京都府流域下水道経営審議会に報告された資料によれば、京都府の流域下水道について、今後10年間毎年82億円、総額820億円の投資が必要になってくる。これは、新名神インター周辺開発、城陽東部丘陵地開発、学研都市開発などの大型開発による流入量増と老朽化が要因で汚水処理池の増設・整備などにかかる費用だ。その費用は24年度以降の料金算定に反映され、汚水処理池増設の要因となった自治体などに建設負担が求められることになる見込みだ。

イ、北陸新幹線にかかる京都南部の自治体・住民負担

 北陸新幹線の建設にかかる地元自治体の負担は明らかになっていないが莫大になるだろう。

 知事は21年7月29日、与党整備新幹線推進プロジェクトチームに対して、整備推進を求めつつ「『受益と負担に大幅な不均衡が生じる』として、貸付料の見直しや地方負担の割合変更」を要求した。

 福井県知事などの計算によれば、敦賀・大阪間のJ Rへの30年間の貸付料が約9,000億円となる。建設費2.1兆円の内、1.2兆円が公共による負担で、うち地方負担は4,000億円という計算になる。とすれば、京都の自治体負担は3,000億円以上になってくる。福井県幹部は敦賀以西の建設費が3兆円を超えると述べており、北陸新幹線を建設する鉄道運輸機構も建設費が大幅に増加することを明言している。一方、J R西日本は「貸付料は受益の範囲で払うもの」としている。北陸新幹線敦賀・大阪間延伸に伴う地方自治体の負担は莫大になるだろう。
 22年2月の筆者の代表質問に対し、西脇知事は「北陸新幹線整備に伴う受益と負担につきましては、京都府域では長大トンネル・大深度地下工事等が想定されており、路線延長も長いことから、京都府の負担が他府県と比べて大きくなると考えており、受益と負担との不均衡が生じることも懸念される」と答弁した。受益に対して負担が重たい、と言うなら建設中止を求めるべきだが、知事は積極的に推進している。

 また知事は「貸付料の見直しや地方負担の割合変更」と法改正を含めて地方の財政負担軽減を要望している。北陸新幹線延伸が、不採算、無駄なものであることは明白だ。自民党国会議員らは国債発行のよる財源での北陸新幹線建設促進を主張しているが、結局、孫子の代に借金返済の負担を押し付けるもので論外だ。

 敦賀市の北陸新幹線整備にかかる負担はどうか。福井県の場合、新幹線駅部区間の建設費負担は、地方負担額に対し「県:市町」は「9:1」である。駅部区間とは、駅舎とその関連区間である。

 敦賀駅の駅部区間1.59キロの建設費は当初320億円と言われていたが945億円に3倍化し、その地方負担は157億円で、その1割=15.7億円が敦賀市の負担である。新幹線建設費とは別に駅周辺整備に伴う負担が甚大だ。敦賀駅西側整備事業として駅西地区土地区画整備事業、立体駐車場、駅バリアフリー、駅交流施設、駅前広場などで総額110億円となり、その敦賀市負担は54億円になる。敦賀駅東側整備事業として新幹線駅前広場、県道整備、市道2路線整備で総額60億円となり、その敦賀市負担は20億円となる。他にも区画整理事業の敦賀市負担が1.1億円となる。新幹線駅部区間と関連事業にかかる敦賀市の負担総額は90.8億円に及ぶ。さらに指定管理料の毎年9千万円がのしかかる。

 敦賀市(人口6万人強)と京田辺市(人口7万人強)は、人口も財政もほぼ同規模である。京都府における北陸新幹線の駅部区間建設費の市町負担は未だ明らかにしていない。松井山手駅については、地上か地下かも未定である。松井山手駅直近となる新名神八幡京田辺J C Tの一番高いところは地上30メーターであることから、その上越しの線路ならば、新幹線松井山手駅は高層ビルの上ぐらいの高さになってしまう。京田辺市長は地下駅にするよう知事に要望しているが、地下駅となれば、その周辺整備に莫大な建設費が必要となるであろう。駅部区間がある京田辺市の新幹線建設費と関連事業費にかかる負担は驚くべき額になってしまうだろう。どれだけの地元負担になるのかも明示せず、とにかく北陸新幹線延伸を推進することは無責任である。無駄で環境破壊の北陸新幹線大阪延伸は中止するべきだ。

ウ、既存地域の維持、インフラ整備への影響

 全国の自治体が、国の号令によって「公共施設管理計画」を策定し、公共インフラの危機と後年度の負担が甚大である旨を声高に叫び、公共施設の統廃合と住民サービス切り捨てが次々実行されている。とりわけ高度成長期の人口急増の都市では、インフラの危機と維持コストの問題は深刻でもある。

 たとえば、「城陽市公共施設等総合管理計画(2017年)」には「本市が保有する公共施設等の多くは昭和40年代から昭和50年代にかけての人口急増期に整備されており、今後、老朽化に伴う更新等の時期が集中し、それに係る費用の増大が想定されます」 とし、公共施設の更新費用等の見通しは「今後40年間(平成28年度~平成67年度)に必要な更新費用等を試算すると、その費用の総額は約648億円 」となり、インフラ施設の更新費用等の見通しは「今後40年間(平成28年度~平成67年度)に必要な更新費用等を試算すると、その費用の総額は約716億円 」としている。

 そして、「施設の集中と選択」が必要と強調し「統廃合、複合化、長寿命化等を検討」をすすめるとしている。実際、城陽市で行政サービスの後退が相次いでおり、道路側溝などインフラの老朽化への対応を求める市民の声は大きくなっている。

 城陽市の「公共施設等総合管理計画」を例に紹介したが、他の自治体でも概ね同じような記述になっている。京都南部は、高度成長期の人口急増に伴って市街地が大きく広がった自治体が多い。旧村での高齢化と人口減少という状況も深刻であるが、高度成長期に造成された「新興団地」では団塊世代が後期高齢時代になり、極端に高い高齢化率となっている。そのことから、京都南部の自治体では、空き家問題、高齢化率が極端に高い団地の問題などの課題が惹起している。

 多くの自治体で、公共施設とインフラの更新時期を迎え、また維持コストの捻出に難渋している。大型開発の推進の一方で、公共施設の統廃合や廃止、住民サービスの打ち切りが強行されている。

 京都南部の自治体は、これまで人口増加を続けてきた自治体も、人口減少に転じることとなった。高齢化と少子化の流れは程度の違いこそあれ、京都南部で今後、加速・進行する。

 その時期に、市街地を拡張するべきなのだろうか。既存の住宅地のインフラ再整備など優先すべき課題も多い。既存市街地・既存団地の公共施設の更新やインフラの維持のために用意すべき財源が、大型開発・新市街地開発のための財源に消えてしまう懸念は拭えない。

4、京都南部のまちづくりをどうあるべきか

 以上見てきたように、規制緩和で大手資本が儲かる、弱肉強食の新自由主義の政治によって、今、急速に京都南部の「まち」に息づく地域の暮らしや産業が壊されてきているのではないだろうか。

 土地需要が高まり、農地を潰せば、山を切り拓けば土地を売ることができる情勢である。京都南部で高速道路網が集中し「整備」される一方で、鉄道やバスの減便が進み、「買物難民」が社会問題化している。それで街の将来は大丈夫だろうか。

 気候危機という地球の非常事態が差し迫っている。すでに世界各地で、異常な豪雨、台風、猛暑、森林火災、干ばつ、海面上昇などが大問題になっていて、このまま推移するなら、気候危機は不可逆になると警告されている。新自由主義政治による大型開発を繰り広げるのでなく、脱炭素と結びついたまちづくり、地産地消の再生可能エネルギーへの転換が時代の要請でもある。


いま一度、大型開発は一旦立ち止まって、住民参加で再検討しよう。

 「大型開発より暮らし優先のまちづくり」「北陸新幹線より住民の足」「大手ロジスティック企業の利益より地元企業・労働者を守る」「大手商業資本の利益優先より、高齢になっても買物しやすいまちづくり」「地域で循環する経済を広げる、産業立地を」という方向に、舵をきる必要がある。

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