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川での話 (怖い話の小説)

8月の暑い日の事だった。
ぼくは、彼女と2人で清流に来ている。
その清流は、青く清らかで美しかった。

あなたは、川の中に入ることに抵抗がありますか?
ぼくは正直、抵抗があります。
子供の頃ならいざ知らず、服が濡れた後の事を考えると面倒くさい。

でも、この時は
夏のムードにテンションがあがって、ついうっかり
羽目を外したんですよね。


泳げるの?大丈夫?
と、彼女が言った。

心配そうに見つめる彼女をしり目に”大丈夫だよ”と、言いながらぼくは川に入る。
思ったより、水は冷たい!
でも、
彼女に、格好をつけたところをちょっと見せたかった。

意外と、泳いでいる人は多く、対岸の岩場まで泳ぎ着いている親子も見えた。なぜだか、他人の泳ぐ姿に安心した。

川の水は青く透き通り、川底まではっきり見える。
でも、岸から数メートルで足が付かない深さになった。

その時、

ぼくの真下に、信じられないものが見えた。
墓石だ。

ギョッとなったぼくは、一瞬動きが止まった。

墓石の周りには、何の花か知らないが青い花が円を描くように置いてある。
一瞬の事なのに、その光景が脳裏に焼き付いた。

近くを、青年が泳いでいるが墓石に気付いた様子が無い。

大丈夫!?
ぼくの異変に気が付いた彼女が、大きな声でそう言った。

とっさに、大丈夫と言う感じで手を振って返事をした。

と、その時
水の流れが変わった、急に早くなった。
背筋にゾッと冷たいものが走る。

水中の墓の様子は、怖くて見れない。
絶対下を向いてはダメだ。

顔を上げ、何とか泳ごうとした時
対岸に白い垂れ幕がかかっているのが見えた。
「事故多発」と書いてある。

必死に、
彼女の元に戻ろうとしたが、戻れない。

どんどん岸から遠くなり、川の色が変わった。
深い緑色だ。

溺れる人は、静かに沈むという。

まさに、ぼくはそうなった。
声が出ない。

どうしたら助かるか?
自分で考えたのか、どうか分からないが、対岸に行けば助かる気がした。

必死にもがいて、もがいて、対岸を目指した。
すると、何かがつま先に触れた。

岩肌だ。

ぼくは、つま先に力をいれて何とか、岩づたいに歩くようにして、対岸までたどり着いた。

肩で息をしながら、へたり込んだ。
死にそうに苦しかった。

しばらくして、ようやく落ち着いたぼくは、彼女がいる対岸を見渡した。
目があまり良くないぼくは、彼女の姿を見つけられない。

困ったな。

溺れかけたぼくは、泳いで戻れる気が全くしなかった。
あたりをきょろきょろ見渡しても、こちら側に人がいない。
誰かに助けてもらいたかったが、どうしようもない。

・・・おかしいぞ。

ぼくが、川に入ったときは、対岸の岩場まで泳ぎ着いている親子も見えたはずだ。

なのに今、こちら側に誰もいない。
川の中にも、誰一人居ない。

心臓の鼓動が、早くなった。
なにか嫌な予感がする。

ぼくは、一瞬時が止まったような感覚に襲われ、頭の中が真っ白になった。
そして、空を一瞬見上げた。
太陽は、真上で熱くジリジリと照り付けている。

「大丈夫ですか?」

いつの間にか、真っ黒に日焼けした少年が目の前に立っていた。
キラキラと輝いた目をしている。
手には、ビニールで出来たイカダのような形のフロートを持っている。

助かった・・・

その少年が、命の恩人だと心底思った。
涙が出そうになるほどの安堵感。

すまないけど、”ぼく”
向こう岸まで、そのフロートにつかまらせてくれないか?

そうお願いした。

少年のフロートにつかまって、バタ足をしながら対岸に向かう。
少年は、泳ぎが得意なようでスイスイと進んでいく。

格好をつけたばっかりに、とんだ恥さらしだ。
本当に情けなかった。

すると、足が川の砂地に着いた感じがあった。

ありがとう。
本当に助かったよ。
そう言いながら、ぼくはヨロヨロと這うようにしながら川から上がった。

ぼくが戻ってくる様子がみえたのだろう。
彼女が駆け寄ってくる姿が見えたので手を上げた。

大丈夫なの?流されたでしょ!溺れたのかと思った!
彼女は心配のあまり怒った様子だった。

本当にごめん!この子が助けてくれたんだよ。
と言いながら、ぼくは振り返る。

すると、

そこには、少年の姿はなく
少女と、その両親らしい人が立っていた。

あれ??
何が起きたか、分からない。

年恰好は、先ほどの少年と同じくらいだが、確かに少女だ。
あの、イカダのようなフロートも持っていない。
少女の、両親は怪訝な顔をしている。

あの・・・、と
ぼくは声を発したが、その少女と両親は黙ったまま去っていった。

あの少年は、一体・・・
ぼくは、彼女にこっぴどく怒られながらトボトボと帰路についた。

あとで聞いた話だが、その川では溺れる人が後を絶たないという。



あとがき。

今回は少し不思議な話を書いてみました。
これは、経験をもとに脚色してあるので、書きながらあの時の恐怖を思い出しました。






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