あの夏の花火
あれね、ちょっと昔のお友達の話してもいいです? 吹奏楽やってたんですけど、あの日はコンクールの次の日で三週間ぶりの休みでした。たしか片岡が「四人で花火大会行かん?」って言いだして、あかりが「ほんなら浴衣着よ」って言ったんで、母と毎晩練習してはじめて自分で帯結んだんですよね。ネイルは帯に合わせた牡丹色。ローズのコロンを手首からうつしたのは首すじで。
でもね、わたし自分の浴衣持ってなくて、母のを借りたんです。素敵な今風のと違って紺地に白の縞に朝顔の帯で、母には悪いけど古くさくてダサいって思われるんじゃないかなぁ。あかりは白地に赤い椿の浴衣で、こっくりした紅いリップになんだかどきどきしました。
高木くんと片岡の甚平姿が改札の向こうに見えたときには、緊張して帰りたくなったけど、片岡が「そのストライプかっこええなぁ。いやぁ、大人っぽくて緊張するわ」って言ってくれたんで、ほっとしたのを覚えてます。
すいません、つい昔話にひたってしまって。天井のモビールですよね。
猫が追いかけてるあのボールね、あの晩公園で片岡にもらったんです。スーパーで花火大会の帰りに買った手持ち花火の、なかに入ってた紙風船。
了
このちいさなちいさな物語(本文498字)は、以下の企画に参加しています。
■ゆっこさんの企画 #しりとりでつなげ
夏っぽい作品に仕立てたくて、夏休みの花火大会を振り返り目線で描くことにしました。文末と次の文頭をしりとりにする必要があって、しかも結びの言葉を「ん」で終わらせないといけない。風鈴、水風船、水平線…。頭の中で夏の風景が広がります。制約のなかで、ことばのつながりを考えるのが楽しかったです。
ちょっぴり不自然なところがあるのは、どうかお許しを。
ゆっこさん、楽しい企画をありがとうございます!!
この企画、8月8日(日)までだそうです。みなさんもよかったら。
■しりとりでつなげ 企画参加作品
※ 関西弁ネイティブじゃないので、ちがうよ!ってとこは教えてくださると助かります。関西のことば、響きがやわらかくて好きなんですけど、地域差がむずかしくって。
==2021.8.6.追記========
ここまで読んでくれたんですね! ありがとう!