その手に魔法をかけられて #okatteスパイス✖️noteユーザーin岡山―出会い旅2023 vol.4
扉をあけると、所せましと脱がれた靴、靴、靴。そこらじゅうでハグしたり手と手を合わせたり、せまい玄関は国際線の到着ロビーになっていた。
前日までの旅でも味わった、不思議な感覚。
初めてリアルで会うというのに、感動の再会のような感覚になる。これは、お互いの生きざまを、ものの感じかた、とらえかたを、読みあってきたからに他ならない。
「やっと会えた・・・!」
そんな感覚。
ワンルームマンションのようなレンタルスペースにはぎゅうぎゅうに人がいて、早くも摂食中枢を刺激する香りに満ちている。
キッチンのいちばん奥、あざやかな緑の袖越しの景色に息をのむ。揚げ物を家でしなくなって、どれくらい経つだろう。胸やけがするほど揚げていた唐揚げもコロッケも、おとなばかりの食卓では出番が減って、最近では買ってくることも増えた。
リュックサックからあわててカメラを取り出し、中望遠の単焦点レンズに付け替える。次から次へと揚げていく手元を、つい撮りたくなって。
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今回、岡山へ行くことにしたきっかけが、このイベントだった。
わたなべ ますみさん主催の #okatteスパイス ✖️noteユーザーin岡山 。
今までずっと写真と文章だけでよだれを垂れ流してきた、ますみさんのスパイス料理。そのライブキッチンを料理とともに味わえる。そんなチャンス、日本列島の真ん中に住んでいたら、なかなか出会えない。
主催者には、ますみさんのほか、クニトミユキさんと猫野サラさん、ルミさん・・・画面越しに何度となく言葉を交わしてきた、あこがれの書き手たちが並ぶ。
なんて贅沢で、なんて素敵な試みだろう。
企画を聞いた瞬間、行きたい!行こう!行く! ポジティブ3段活用で即決だった。
noteをたがいに読んでいたり、メールで文通をしたことがあったり、Zoomで話をしたり、既に会っていたりする人が大勢いたし、初めましての素敵な出会いもあった。誰とでも話したいことがいっぱいあって、でも、次々と盛り付けられていく料理の写真も、イベントの様子も撮りたくって。シャッターを切る指先も口もいそがしい。
この企画があったからこそ岡山まで遠出できたし、コロナ禍をともに支え合ってきた仲間たちに会えたのだった。
「なに飲む? ワインもあるよ」
「わぁ、これおいしい!」
「これには、何が入ってるの?」
「揚げるの、交代するよ」
「これね! ミユキさんのスパイスナッツ! 食べてみたかったの!」
「こんなスイカ、食べたことない!」
「このすだち、ルミさんね!」
「初めて食べる味だけど、何これ、すっごくおいしい!」
「レシピ知りたい!」
料理をする手は、エネルギーを生みだす手だった。素材の持つエネルギーに水と火のエネルギーを掛けあわせ、スパイスの香りとともに「おいしくなぁれ」の魔法をかける。
その手にかけられた魔法で、そこらじゅうに笑顔がはじけている。料理を作る手も、よそう手も、会話も、もぐもぐも止まらない。うまい!
おいしい料理は、世界を幸せにする。
その手のかける魔法は、世界を幸せにする。
食べる。喋る。聴く。飲む。食べる。
物書きは、体験をことばにして共有したがる生き物なのかもしれない。「食べてるときは静かになる」なんてよく聞くけれど、ぜんぜん静かになんてならない。
たくさんの人の手が生みだしたエネルギーを身体に取りこんで、わたしはどんどん満ちたりていった。この幸せを、ここに集まったすべての人たちと共有したい。
すこやかで幸せな、エネルギーの循環。
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ずっとずっとその空間にいたかったけれど、帰りの新幹線の時刻が迫っていた。持ち寄ったおみやげを交換して、後泊組のみんなに別れを告げる。
外へ出たらまだほんのり明るくて、夏草の匂いがした。
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新幹線に乗り、イヤホンを差して岡山の周波数を探す。なぜか野球中継が見つからない。いたしかたなく、速報アプリを開いて試合の途中経過を追う。
神戸に近づいた頃、もう一度サーチしてみる。阪神vs中日戦の実況と歓声。イヤホンから、日常が流れこんできた。
ありがとう、ありがとう、ありがとう。
幸せで濃厚な二日間、夢を見てるみたいだったよ。