ピンサロ
「songwriter」の2曲目に収録。初っ端からどうなんだって選曲ですが割と僕の中では代表曲っぽい顔をしているので1発目に解説します。
まず僕の歌全部に言えることですが、豊田道倫さんと加地等さんの歌にはめちゃめちゃに影響を受けています。この世に歌にしちゃいけないことなんて一つもなく、そういう歌こそいい歌かもよと教えてくれたのが二人の歌で、僕を歌キチガイにした人たちなので聴いたことがない人は聴いてみてください。いえい。
ピンサロですが、これはほとんど経験、実話をもとにして書いた歌です。作詞テクニックもクソもねえな。
長年付き合っていた彼女に振られ、生まれて初めての失恋に絶望して、毎日毎日死にたくて仕方なかった僕はなんか初めて風俗に行きました。
そこで出会ったうみちゃんという女の子にことの経緯を説明すると笑ってなぐさめてくれて、仕事なのでそりゃなぐさめて当然なんだろうけど、本当に救われたんす。ちょっと恋したりして。女の傷は女で癒せといいますか。
その時の経験がそのまま歌になりました。
ピンサロは詞とメロディがほぼ同時にできて、あとから詞を整えていきました。このパターン結構多いです。
まずは全歌詞。
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ピンサロ
なぐさめてくれてありがとう 笑ってくれてありがとう
うわべだけでもうみちゃん 在籍番号008
腐った心の枯れ土に一輪花を添えてくれた
ぬぐっても消えない暮らしの染み
気の遠くなる心の海 泳いで進めば進むほど戻ってこれない後悔よ
なくして気付くとわかっていてもうまくやれなかった
どんなに悲しい思いをしても どんなに悔しい思いをしても
頭ん中では誰でもいいからやりたい、やりたい、やりたいうう
そんな自分がすごく嫌い
全部終わりにしようと思っちゃった
もう一度あなたに会えるなら、もう一度あなたと笑えるなら
あなたをギューッと抱きしめたいけど
こんな汚れた両手じゃあなたの指さえとても触れないだろうなあ
あなたが住んでるとてもとてもたくましいマンション
幸せになれよ どうでもいいけど
ふと出会って、夢を見て、愛してる 戻れない夏だった
足りないところ求めたあと 裏切りあって別れた
悲しくて悔しくて泣き濡れて ひどく暑い夏だった
不甲斐なくて泣いたあと、ピンサロ行ってまた泣いた
優しくされたよ とてもとても柔らかいフェラチオ
嘘も本当もどっちでもいいけど
黄昏の街角に風が吹く 西日が頬をなでた
過ちをなだめたあと、私を抱きしめてくれた
悲しくて悔しくて泣き濡れて 短い夏が終わった
不甲斐なくて泣いたけど ピンサロ行って笑えた
—————
“なぐさめてくれてありがとう 笑ってくれてありがとう
うわべだけでもうみちゃん 在籍番号008”
当時の僕は失恋のショックで働けなくなりスーパーニート。消費者金融で金を借りて家賃を払い飯を食い、その金でうみちゃんに会いに通う日々。そのうち借金の残高もなくなって物理的にうみちゃんに会えなくなり、気付けばうみちゃんは店から消えていました。切ねえね。
あれから何年も経ち、傷も癒えた時、うみちゃんどうしてるかなあ、いつかあの時の感謝を伝えたいなあとメロディと一緒に浮かんできたのが書き出しのフレーズ。なんの工夫もねえ、ただの感謝の気持ち。
万に一つの可能性でうみちゃんに届いた時に「これ私か！？」となるように本当の在籍番号を書いたことで歌詞のフックとしました。
歌詞のフックって重要で、本来あまり歌に使わない強い言葉を入れることで歌に引きこんだり唯一無二の歌になったり、まあ色んな効果があります。使いすぎるとクドイし意味が限定されてしまうのですが僕は多用してます。
”腐った心の枯れ土に一輪花を添えてくれた”
昔作ってボツにした歌に"腐った心の枯れ土に一輪の花が咲く"というフレーズがあって、そこから持ってきました。昔の俺サンキュー。ただ、失恋をなぐさめてもらった時の心の安らぎは根本的な安らぎではなく一時的なものだったので、咲かさずに"一輪花を添えてくれた"と表現しました。
"腐った心の枯れ土"は子音がアタック感の強いカ行、サ行ばかりなので歯切れ良く、日本語ならではの詰め込むかっこよさ出せたかなあと思います。
”ぬぐっても消えない暮らしの染み
気の遠くなる心の海 泳いで進めば進むほど戻ってこれない後悔よ
なくして気付くとわかっていてもうまくやれなかった”
ピンサロは最初ラップにしようと思っていて、染みと海で韻を踏んだつもりなんす……うみちゃんと海もかけてさ……海を行くという意味での航海と後悔もかけてさ……
染みという言葉は敬愛する加地等さんからの影響で、よく使ってしまいます。二文字で生活の背景が広がるすごい言葉。
”どんなに悲しい思いをしても どんなに悔しい思いをしても
頭ん中では誰でもいいからやりたい、やりたい、やりたい うう
そんな自分がすごく嫌い 全部終わりにしようと思っちゃった”
一丁前に絶望した顔をしているくせに人肌恋しくなったり性欲があったり、そんな自分が恥ずかしくて何もかも終わりにしたかった。その時の気持ちをそのまま、恥ずかしくてもできるだけ正直に書きました。
”もう一度あなたに会えるなら、もう一度あなたと笑えるなら
あなたをギューッと抱きしめたいけど
こんな汚れた両手じゃあなたの指さえとても触れないだろうなあ”
ここで一度歌の対象がうみちゃんじゃない元恋人にシフト。
初めてピンサロに行った日から少し経って、元恋人の家に残した荷物を届けに行った時のこと。共通の友達から僕がピンサロに行ったことを聞いたのか、彼女は軽蔑と嫉妬の入り混じった顔で「あ、汚れた男だ」と吐き捨てました。僕はまだバリバリ引きずっていたけれど、ああこれでもうこの子とは一生一緒になれないんだなあと、その時の気持ちそのままです。
”あなたが住んでるとてもとてもたくましいマンション
幸せになれよ どうでもいいけど”
最初は"さわやかなマンション"だったのですが、もう少し意味のある言葉にしたくてたくましいマンションに。
あの子の住んでるマンションはあの子を守るマンション。外の喧騒から、憂鬱から、鬱陶しい元カレから、そういうマンションであれ。
幸せになってほしいけど、どうでもいいけどは強がりです。サビに行く前のフック。
”ふと出会って、夢を見て、愛してる 戻れない夏だった
足りないところ求めたあと 裏切りあって別れた
悲しくて悔しくて泣き濡れて ひどく暑い夏だった
不甲斐なくて泣いたあと、ピンサロ行ってまた泣いた”
サビはメロディの兼ね合いで
一行目はどうしても
「〜て、〜て、〜る」
三行目は
「〜て、〜て、泣き濡れて」
と当てはめたかったので苦労しました。膨大な言葉の中からメロディと見せたい景色がピッタリハマるものを見つけてくる作業。でもこういう作業が一番楽しかったりします。必ず合う言葉があるからね。
"あなた"と僕はどういう関係なのか、何がどうなってピンサロに行ったのかの過去の振り返り、説明っすね。
”優しくされたよ とてもとても柔らかいフェラチオ
嘘も本当もどっちでもいいけど”
ここで現在に戻って歌の対象もまたうみちゃんへ。
1番のマンションに比べてこのフェラチオはかなり語感が悪いです。わざわざフェラチオって言わなくてよかったのかもしれないけど、ピンサロという歌でフェラチオと書かないのは嘘だと思った。語感が悪いフックということで！
字余りとか字足らずとか語感の悪い言葉はどうしても言いたかった言葉の証でもあります。
”黄昏の街角に風が吹く 西日が頬をなでた
過ちをなだめたあと、私を抱きしめてくれた
悲しくて悔しくて泣き濡れて 短い夏が終わった
不甲斐なくて泣いたけど ピンサロ行って笑えた”
最後のフレーズを結構序盤で思いついていたので、そこに着地できるように歌詞を組み立てました。
クライマックスは高円寺の中通り商店街(通称ピンサロ通り)の景色がモデル。
ピンサロに行ったことなのか、働いていることなのか、恋人と別れてしまったことなのか、出会ったことなのか。そういう過ちを全部なだめてくれる懐が高円寺の夕日にはあった。”僕”だけじゃなくうみちゃん、元恋人、歌の登場人物全員が投影できるように”私を抱きしめてくれた”という表現にしました。ここで"私"を使うためにピンサロでは"僕"という言葉は一切使っていません。
ちなみに最初は”黄昏の杉並”だったのですがもう少し広くしたくて黄昏の街角にしました。
1番で"夏だった"2番で"夏が終わった"と歌った夏は時系列をわかりやすくする意味もありますが、愛であり恋であり、諸々を含んだ夏です。
思えば複雑な歌で、書き出しはうみちゃん100％だったものが1番のサビで元恋人100％になり、2番で全部ー！みたいな。それでも結構わかりやすくまとまったなあと思う。
私・元恋人・元恋人の新しい恋人みたいな三角関係はよく歌になっているけど、私・元恋人・ピンサロの女の子という三角関係でもなんでもねえ三人がうたわれた歌はピンサロだけじゃねえかなあ！！
誰も歌っていないことを歌にした時、よっしゃ！と思う。
かなりパーソナルな歌だけど、こうして経験をそのまま書くだけでも歌になる。作詞する上で経験は財産だよ。どうにもならないしんどさの最中でも、絶対にそれを忘れない。いっぱい泣けばいいし、いっぱい苦しめばいい。そんで書けばいい。いい歌が書けた時、全部あの時泣いてよかったになるから。
水野ねじ/ピンサロ
Apple Music
https://music.apple.com/jp/album/%E3%83%94%E3%83%B3%E3%82%B5%E3%83%AD/1438509301?i=1438509306
Spotify
https://open.spotify.com/track/1zsEsNJAT5DzWyYAIoJpfz?si=FVBQXOFpQVmbwQlrsFKKwA
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