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「国語」と「日本語」 ~対照言語学からみた日本語の音声④~
日本語非母語者を対象とする日本語教育においては、調音点・調音法・拍・音節などの音声学に関する基礎知識は不可欠だが、日本語母語者を対象とする国語教育においても、そうした知識は必要だろう。日本語を母語とする生徒の中にも、発音に問題を抱えるケースは少なからずある。先天的な器官異常や事故等による器官損傷が原因となっている場合には医学的な対処が必要だが、特にそうした問題がないのに、幼い頃からの癖で発音が不明瞭になってしまう機能性発音障害については、ある程度は教育現場で対応が可能だ。これは原理的には、外国人が日本語を発音する際に、母語の癖が抜けずに発音が不明瞭になってしまう場合と同様のケースだと考えられるからだ。
機能性発音障害で頻度の高いケースは、カ行・サ行・タ行の混同、拗音およびイ列の発音不明瞭などであるといわれる。カ行・サ行・タ行については、調音点が硬口蓋と歯茎、調音法が破裂音と摩擦音という違いになっているのだが、その違いを口腔内でうまく処理できていないのが原因だと思われる。イ列の発音は調音点、すなわち舌の位置が、ア・ウ・エ・オ列に比べて、サ行・タ行ではやや後ろ寄り、カ行ではやや前寄りにずれるのだが、その調整がうまくできていないのが原因であろう。拗音の発音も同じく調音点の問題に帰せられる。微妙なメンタル面の問題もあるため、それを矯正すべきか否かは別問題だが、少なくとも音声学的な問題点を把握しておくことは、そうした生徒への対応の一助となることだろう。
文法と音声は「聞く」「話す」といった口頭でのコミュニケーションに欠かせない知識・技能だが、「読む」「書く」といった文字を媒介としたコミュニケーションにおいても不可欠な要素でもある。人は通常、文章を読んだり書いたりする際に、頭の中でそれを音声に変換しながら行っているものだからだ。逆に言えば読んだり書いたりする際に不可欠な文字に関する知識は、聞いたり話したりする際にも必要だということになる。口頭でのコミュニケーションの際にも、人の脳内には文字が浮かんでいることが往々にしてあるからだ。次は日本語の文字に関して、国語教育と日本語教育、それぞれの立場からの考察を進めてみよう。