太陽の塔
真夏の陽射しを浴びて母親に手を引かれ 人混みの中を僕ら歩いてた
宇宙飛行士が持ち帰った月の石を 一目見たくて1時間半並んだ
お祭り広場の真ん中に立って 下から見上げた太陽の塔
僕らは無邪気に信じてたんだ 人類の進歩と調和ってやつを
南の大地で飢えに苦しむ人がいる 北の寒さに凍える人もいる
砂と油の国では果てない争いが続き 力と正義が巧みにすりかえられてく
憎しみに汚されない未来を いつか子供たちに残してやれるだろうか
両手を広げ太陽の塔は今も 優しい目で僕らを見つめてる
真冬の冷たい風にコートの襟を立て 口をつぐんで僕ら歩いてた
もつれた糸を断ち切る爆撃の音が 街角のTVから流れてた
街頭募金に小銭を投げこみ それで免罪符になるわけないだろ
無邪気に信じるだけじゃ何にも変わらない わかってるのに気づいてるのに
東と西の壁は崩れたけれど 北と南の隔たりは広がってる
幸せになったはずの豊かなこの国で 心を病んでる人が増え続けてゆく
悲しみに染まらない世界を いつか子供たちに残してやれるだろうか
ふりむけば太陽の塔は今も 遠い目をして僕らに問いかける
手をつなごう途切れない未来を いつか子供たちに残してゆけるように
両手を広げ傷だらけの世界を 目をそらさずに抱きしめていこう
憎しみに閉ざされない未来を いつか子供たちに残してゆけるだろうか
ふりむけば太陽の塔は今も 遠い目をして僕らに問いかける
*1970年の夏、小学一年生だった僕は、大阪で開催された万国博覧会に行きました。前年の1969年、アポロ11号が月面着陸の際に持ち帰った月の石がアメリカ館で展示されるということもあって会場は大混雑。「人類の進歩と調和」をテーマに連日のように繰り広げられるお祭り騒ぎは、「こんにちわ、こんにちわ、世界の国から~♪」という脳天気なテーマソングのメロディーを伴って、明るい未来のイメージを日本中にふりまいていたのでした。
万博会場の真ん中には、岡本太郎さんの名作「太陽の塔」が、シンボルオブジェとして大きくそびえ立っていました。にぎやかなお祭り広場の真ん中で時空を超えて世界と対峙しているかのような「太陽の塔」の圧倒的な存在感は、子供心にも強く印象に残るパワフルなものでした。
SMAPが歌って大ヒットしたスガシカオさんの「夜空ノムコウ」の歌詞に、「あの頃の未来に 僕らは立っているのかなあ 全てが思うほど うまくはいかないみたいだ」というフレーズがあります。大阪万博から50年近くを経た現在の世界は、あの頃思い描いていた未来と、どれだけ一致し、どれだけ隔たってしまったのだろうか、そんな問いかけを、万博会場の跡地に今も残る「太陽の塔」に託して作った歌です。