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ダヲエ

楔形文字、というのだろうか。
細長い三角形の組み合わされた文字列が並んでいる。
私の思考は、それを、文字として認識する。
そして、既知の文字列に変換しようとする。
憶えておくために。

ローマ字で表記するなら、「DAWE」というような文字列。
あるいは、「DWYE」。
確証はない。
頼みの綱は、私の記憶以外にないが、記憶は揺らいでいる。
なにせ、夢の暗号である。(私の思考は、それが、暗号であるとも認識している)

おまけに、文字列は動いていた。
明滅していた、という方が正しいか。
文字列の裏側から、蛍のような、あるいは、回転する灯台のような、強弱のある光が照らし、文字列を浮かび上がらせていた。(いま思えば、あれは、呼吸だった)
文字列の、どこからかどこまでが一文字なのかも、わからなかった。

「ダヲエ」と読むらしい。
「ダヨエ」の音にも近い。
読みの音から、ローマ字を当てはめてしまったかもしれない。

「ダヲエ」の音を霊聴したのと同様に、「ダヲエ」の意味は、「だれでもないわたしであること」と直観した。
その瞬間に文字列は消滅し、夢から覚めた。

ダヲエ。
「だれでもないわたしであること」
これが、何の暗号だというのか。

対になる暗号は、
「だれでもあるわたしとなること」
とも閃く。

古代からの格言、
「汝自身を識れ」
「汝自身で在れ」
も、なんとなく思い起こされる。

「だれでもないわたしであること」
既にある匿名。
「だれでもあるわたしとなること」
目指される無名。

秘されて消えている一方、遍在して消えてゆくことで、名が一層意識される。
不在の在、だろうか。

ダヲエ。
あぁ、これは、私の宇宙での名だったか。


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