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白樹の先

いつかの夢でみた光景に、未だに出逢えていないと思う。
いつか必ず出逢うのだ、とも思う。
彼岸の世界のような気がしている。
……と、記した瞬間、その夢を思い出し、続きもみた。白昼夢、だろうか。



深い紺碧の空、満天の星。
濃いエメラルドの平原には、白光の靄が立っている。
平原の果ては、崖。

崖の縁に、背の高い樹が、番人のように立っている。
樹も白く発光している。
その樹は、枝を、地面と水平に、片腕のように伸ばしている。
この先へは行くなと、示すようでもある。

しかし、あぁ、そうだ。
わたしは、その樹の枝で首を吊るか、崖から飛び降りるか、無言のままに迫られるのだ。

樹の背後の崖下は、漆黒の闇である。

その深淵を隔てた先に、やはり断崖絶壁、こちら側よりも高い崖がそびえている。向こう側の崖の裏側へ、天の川が流れている。

星々の一つひとつが、くっきりはっきりと見える。
美しい。あまりに美しい光景だ。

樹の枝にはロープが吊るされ、先が輪になっている。
首をかければ良いだけだ。
ロープも白く発光している。安らかに逝けるのだろう、と思う。

選ぶまでもない、と思う。首を吊って死ぬのだ、と。
疑いもおそれもない、静かな気もち、清々しい諦観の思いで、空を仰ぐ。
星々はまたたき、見守られているように感じて、小さく微笑む。
おそらくは、腕のような樹の枝に抱きとられるのだ、とも思う。

思い残すことは、何もない。



わたしは、じぶんの首をロープの輪にかけようとした。

そのあたりから、夢の記憶は曖昧だ。まるで迷宮に入りこんだようだった。カマロカ、だろうか。
思い出せないのだが、思い出したくない記憶を思い出したような苦みがあった。かつての体験はもはや遠いはずなのに、そのときの思いはありありと近しく甦る。



はたと気づく。
また、あの白樹の下に佇んでいる。

ロープは白く光らない。

そうだ、首は吊らない、飛び降りるのだ。漆黒の闇の深淵へ。

そう思ったら、もう、そうしていた。

そうして飛びこんだ瞬間、すべては光の速さになっていた。
光の速さで加速した。闇は一挙に光となった。

わたしは光であり、無尽蔵の光の水として、無量に降り注いでいた。
三千大千世界へと。

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