潜竜
「潜竜(せんりょう)という。まだ昇らない龍のことを」
「深海の魚たちは、潜竜か。群れて微睡んでいながらも、目覚め、時が来たなら一人ゆく」
「一人はさびしい?」
「さびしくも感じるけれど、ほんとうは、さびしくはない。“しあわせへのひとあしずつ”。息よりも命を、生きるより祈りを求道するとき、さびしくはない」
「イルカのゲートをくぐってね」
「そう、トライアングルの」
「いつかまた会えるね。魚の仲間たちや、龍になって昇っていった者たちに」
「会える。ひとはみな、きせきの途上。しあわせのための、きせきの途中。途中にも会えるし、初めにも会っていたし、果てにも会える」
「一緒には、ゆけない」
「そう、時の流れがちがうんだ。それが此処に個々に生きることだから。時は均しくはないけれど、等しい。そのときはいつか誰にも来たる。軌跡なら交錯している。重ならない手も、水と光の透明のうちに重なっている」