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ブルーストーン
それは青い石でした。
大きな青い石でした。
あるとき、石は割れました。
一瞬にして亀裂が入り、二つに分かたれたのでした。
二つの青い石は、より軽やかな淡い青と、より濃密な深い青でした。
まもなく、さっくり、分かれたのではありません。
徐々に徐々に距離が生まれ、二つの石は遠のいていきました。
それを止めることは、二つの青い石にはできませんでした。
もとは一つの石なのに、もはや、再び一つになることはないのだと、二つの石は識っていました。
伸ばす手もなく、呼びかける声もなく、ただ、強く烈しいまでに、まなざすことしかできませんでした。
より淡い青の石と、より深い青の石。
遠のくほどに、互いに青めいていきました。
二つの石は、互いに互いを眺めながら焦がれながら、別たれて放たれていきました。
遠のくほどに、互いに互いが煌めき燃ゆるようでした。
「いとおしいあの石は光に消えた」と、一つの石は思いました。
「いつくしいあの石は闇へ消えた」と、もう一つの石は思いました。
そのくらい離れてしまったのです。
光と闇の、どちらがただしいか、やさしいか、美しいかなどは、いまはどうでもよいのです。
たとえば、光の悪魔、闇の天使だっているのですから。
問いにはならない問いなのです。
二つの石は、分かたれた片われを、いつもいつでも懐かしく、心に懐いておりました。
いつか再び会いたいと、叶わぬ願いを秘めていました。
だって、一つの同じものだったのですから。
「いつか光に還るんだ、いつか闇へと帰するんだ」
闇のなかでは望めぬものを、光のなかでは臨めぬものを、心には、なくしたことは、ありません。