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これからもよろしく
〈かれは決して居なくならない〉
訃報を受けても、俄には信じられなかった。
亡骸に接して初めて、かれはもう生きてはいないのだ、と実感し、愕然とした。
あまりの喪失感に崩折れ、もう二度と立ち上がれない、これからどうして生きてゆけよう、と思った。
悔やむことばかりだった。
もっとなにか、かれのために、できることがあったのではないか、と打ちひしがれた。
しかし、もの言わぬ――もともと寡黙であった――かれと、しばし二人きりで過ごすうち、すなおに、純粋な感謝が湧いた。
生きているあいだには、大して言わなかったのに、「ありがとう」と泣き笑みながら、かれの頬を撫でていて、自分でも驚いた。
(もはや応えてはくれないひとを前に、心を許して、勝手に触れて、泣くなんて)
かれの、すべてを受けとめる沈黙が、「ありがとう」しか言わせなかった。
遺影の笑顔、亡骸の佇まい。
そして、生きたきせきも、また。
感謝のおもいを抱きながら、感謝のおもいに抱かれる心地がした。
ふっ、と、身が軽くなるような、不可思議な感覚だった。
わたしをどん底へ突き落とした当人が、わたしを新たな地平に立たせるが如くだった。
「これからもよろしく」。
わたしはかれに微笑んだ。