だれかくんとあなたさん
だれかくんには、〈だれか〉という名がありました。
けれども、だれかは、だれかです。
ここにいても、だれでもないようでした。
あなたさんにも、〈あなた〉という名がありました。
けれども、あなたは、あなたです。
ここにいても、ここにはいないようでした。
ですから、だれかくんも、あなたさんも、一人さびしく生きていました。
だれかくんと、あなたさんが、出逢ったとき、出逢うなり、互いに静かに驚き、互いにそっと歩み寄り、抱擁し合い、長いこと、そうしていました。
だれかくんと、あなたさんは、共に嬉しかったのです。
深く安堵もしていました。
この世にあって、はじめて、自分と同じ響きをもつ人に会えたからです。
だれかくんと、あなたさんは、いまなお、透明なまま、ここにいます。