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ゆきずり
わたしは、貧しく乞う者であった。
野ざらしにあり、蔑まれていた。
自ら、自らを蔑んでもいた。
ついに行き倒れたとき、かくまわれ、憐れみと施しを受け、どうにか生き延びたことがあった。
しかし、意識が戻っても、世はなお、土埃にまみれていた。
なぜ助けたのか、助けられたのかと、行き場なく、恨めしくさえ思った。
血を吐き、反吐を吐き、ようやくわたしが、真に一人立てたとき、惜しみなく与えたそのひとは、立ち去った。
来たったときと同じく、何の音もなかった。
それは、わたしの、さらし者であった過去を、他のだれにも知られることがないように、であった。
気づいたときには、遅かった。
どことも知れぬかれの行く手を、その日ばかりは、日がな見つめた。
こみあげる涙も、こぼさずに、凝視していた。
翌朝、わたしは、かれに背を向け、歩み始めた。
もしかしたら、かれの背を追って歩み始めたのかもしれないが、わからない。
かれの痕跡は、跡形もなかった。
わたしのうちにしか、なかった。