七色の薔薇
「わたしの薔薇、きれいな色の薔薇にして」
と、妹の一人が窓から身を乗り出して叫んでいる。
わたしは顔を上げて微笑む。
妹はわたしの肯きに喜び、その頬は薔薇の花の如く上気している。
「すでにあなたが薔薇なのに。薔薇はなべて美しいのに」
と、わたしは少しの可笑しみを感じる。
「娘が七人ですから、七本、薔薇を切ってくるように」
と、母から申しつけられ、わたしは百花繚乱の薔薇の庭に降りていた。
窓から眺めても、十分に眼福なのではあったが、母曰く、
「花束を前景に、庭の全景を観るのも一興。それに、部屋でも香りを楽しめますでしょう」
とのことだった。
わたしは渾身に咲く薔薇を選りすぐり――
とはいえ、薔薇のほうから、〈その〉薔薇を教えてくれたのだが――
七本の、七色の薔薇を束にした。
そして、窓から興味津々で覗いている妹に、花束を掲げて見せた。
その刹那、七色の薔薇は、わたしの腕の軌跡をなぞると同時に遥かに超えて、七色の虹の弧を描いた。
そして、決して朽ちることのない七色の薔薇から、七色の花弁が、尽きることなく、馥郁とした香りごと降っていた。
花弁は降り、触れるたび、十字に閃き、明滅した。
七色の、七音の、福音のよう、と、ふと思った。
あぁ、きょうは、ペンテコステだ、と思い至った。
わたしは、聖霊を手に、聖霊へ捧げるために、部屋へと駆け戻った。