船舶事故と船客傷害賠償責任保険
知床沖で観光船が転覆、沈没するという事故が報道されている。
筆者も、約10年前、網走に行った際に、砕氷艦から流氷を見学するツアーに参加したことがある(実は今回の事故を起こした会社とは別の会社で、同じような知床沖ツアーを運営する会社が、流氷見学ツアーの運営元であった)ため、余り人ごととは思えないところがある。
さて、このような事故が発生した場合、その損害賠償については、「船客傷害賠償責任保険」という保険を用いた対応がなされるものと思われる。今回の事故を起こした会社が、どのような保険に入っていたのかはわからないものの、インターネットで一般に公開されている、東京海上日動の約款を見ながら少し検討してみたい。恐らく、他の保険会社の約款も、大きな相違点はないものと思われる。
船客傷害賠償責任保険は、
に、保険金が支払われるというもので、旅客に対して負う損害賠償金の他、(被保険者が)紛争解決のために弁護士委任した場合の弁護士費用や、救助費用についても支払の対象となる旨の規定がある(約款4条)。
我が国では、過去に多数の死傷者を出した船舶事故が発生した歴史があり、他方、損害保険の歴史は、元々は海上保険に由来する。東京「海上」、三井住友「海上」というのはその名残であり、港町に行くと保険会社のロゴがあちこちに見られるのはこのためである。
さて、ここからは、旅客ないしその相続人の立場から、この約款を見て、また損害賠償請求において相手方が保険会社に加入している場合一般に妥当する注意点を指摘しておきたい。
まず、船客傷害賠償責任保険については、いわゆる示談代行サービスが付与されていないことが明記されている。交通事故などの場合、保険会社が加害者に代わって被害者と交渉をするということが一般に行われているところ、これは示談代行サービスが保険の内容として含まれているからである。このため、損害賠償請求を行う場合、交渉自体を相手方である運営会社と直接、行う必要がある。
また、死亡事故などの場合、逸失利益の算定には、どうしても仮定の要素が介在することが多く、特に小さい子どもや自営業、自由業などの場合は、給与収入や将来の昇級が安定しているサラリーマンや公務員に比較して、算定が困難なことも多い。また金額的な問題もあるため、裁判外での解決が難しく、訴訟提起せざるを得ないという事態も十分考えられる。これは保険を使う以上ある程度やむを得ないところであり、保険会社の意思決定のためには、裁判所における和解ないし判決を介在する必要があるという事情によるもので、加害者が出し渋っているわけでも、被害者が法外な請求をしているわけでもないことには注意してほしい(一部そのように誤解する報道や、ネット上のコメントがあるため注意喚起する次第である)。
これらを踏まえると、事故について運営会社に過失があることが明らかであるような場合であっても、解決までには種々の法的に複雑困難な要素が介在するものと思われるため、早期に弁護士に依頼した方がよいと考えられるところである。その際は、やはり交通事故等、保険会社が介在する案件に知識、経験を有する弁護士に依頼するのが良いだろう。ただ、ネットで検索して「交通事故専門」などと謳っているところが、必ずしも十分な知識、経験を有しているとは言えないことには注意した方がよい。
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