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エッセイ「本気の引っ越し」

十八年前、「本気の引っ越し」をした。

 家族四人(夫、夫の母、娘、私)で住んでいた家が、娘の成長とともに手狭になったので、歩いて五分ほどの同じ町内に新居を建てた。同じ町内にしたのは、娘を転校させたくなかったからだ。

 引っ越しをするとわかるのは「一軒家の不思議」の一つである荷物の多さだ。どこにこんなに荷物が入っていたのだろうと思うほど、出しても出してもわんこそばなみに荷物が出てくるのには本当に驚く。うすうすは気がついていたが、これは早めに『断捨離』をしないとと焦る、なんせ燃えないゴミを出せるのは月一度だ。友人宅で、引っ越し時のダンボール箱が数か月放置プレーにあっていたのを思い出し、他人事ではないと切迫感にかられた。 ―よし、これは本気で引っ越しをしよう―と覚悟し、兜の緒を締めた(まだ勝ってないが)。

 住宅メーカーからもらっている五十分の一の間取り図面をコピーする。持っていく家具を「導線」を慎重に考えながら図面に書き込む。ちょっとした通路の狭さが、意外といらいらの原因になっている場合がある。次に、収納スペースの確認と「番号づけ」をする。勝負は、相手の状況をしっかり把握することが基本だ。建設中の現場にも足を運び、目でも確かめイメージも掴んでほくそ笑んだ。

 さあ、いよいよメインイベント「断捨離」だ。
ポイントは『好きかどうか』だけで決めること、これが今回の「本気の引っ越し」の理由である。『好きかどうか』などという一時の感情で決めていいのかと思うかもしれないが、多くの女性においては重要なポイントであり、少なくともわたしにとっては最重要項目だ。そこで、今回はそこにとことん拘って、「高かったのに」とか「せっかく頂いたのに」とか「まだ使えるのに」とかいう理由をいっさい置き去りにして、本気で「断捨離」してみようと思ったのだ。こんな思いったことができるのは、引っ越しが絶好のチャンスだとわくわして実行に移した。

 引っ越しが終わり、爽やかな風がかけ抜けるリビングでひとり、達成感と満足感にひたった。驚くほど荷物が少なくなった。 
 ―好きなものだけに囲まれるというのは何と気持ちのいいことか―、いままでいかに損得とか、義理とか、少しのがまんにエネルギーを使って暮らしていたのかと気がついた。これを「人間関係」でもできたのなら、もっと人生はシンプルになるのかもしれない。

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 現在、知らない間に荷物が山のように増えた。それも、夫の荷物だけが増殖した。どういうこと!?

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