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小説『グラヴィティ・ペアー』

2041年8月。

日本初の民間スペースシャトル「eureka」が、鹿児島県種子島から打ち上げられた。この夏、人類が移住するために20年かけて開発されていた地球の衛星軌道上の大型宇宙ステーション「noah」がついに完成。アメリカ・ロシア・中国・日本・フランスのそれぞれから代表が移住し、居住実験がスタートする運びとなった。そして、移住者が「noah」に到着し本格的に居住がはじまるきょう、世界中の視線がこのステーションに注がれていた。

ステーションからの第一声は、YouTubeを通じて全世界へ配信されることとなり、開始時刻が近づくにつれ視聴者数はうなぎ登りとなった。地球上の誰もが、その姿を固唾を吞んで見守っていた。そしてついに、2人の声と姿が動画となって届いた。

「えー。地球のみなさん。上空430キロメートルの宇宙からこんにちは。世界初の夫婦での日本人移住者。風間ソラと」

「風間アオです。」

風間夫妻は、各国代表の中でも唯一の夫婦での宇宙飛行となった。人体への影響や研究の都合もあり、年代も性別も人種も全く異なる人間が一緒のシャトルで送り込まれたのだが、夫婦ということもあり特に風間夫婦はメディアから注目を集めていた。

「いやーすごいね。宇宙空間からの生配信ということで、まあ僕たちもとても緊張してます。」

視聴者は配信開始と同時にどんどんうなぎ登りに増えていく。生配信と同時進行しているチャットの画面には、大量のコメントが流れてくる。日本語のみならず、英語やフランス語、世界中の様々な言語が溢れているが、その全てが風間夫妻を祝福するものであった。

「まだでも実感湧かないよね。到着して1日経ったけど。」
「ステーションの中って、重力がちゃんとあるんですよ。ふわふわ浮いてなくてもぜんぜん生活できるから地球と変わらないっていうね」
「まあ、窓の外から見えるのが地球ってのは贅沢なロケーションだけどね。」
「それ思った!すごいところ暮らしてるなーってね」

二人がカメラを動かす。小窓の外から宇宙空間が覗ける。その遥か先に、青い地球の姿が確認できた。「地球スゲー!」「地球蒼い!!」の言葉がコメント欄にも飛ぶように流れてくる。

「で、アオちゃん。地球に居る僕たちの息子、クウからメッセージが届いてるみたい。」「え!なんて書いてある?」
「「ママ、パパ。宇宙人には会えた?」だって。」
「アハハ・・・。うーん、また宇宙人には会えてないかな。」
「まだわかんないけどね。もしかしたら会えるかもよ?」
「でも、20年前にはこんなことになるなんて思ってもいなかったよね。クウが生まれたばかりだったけど、まだまだコロナウイルスで大変だった時期で…」
「それが20年経ったら親子で宇宙飛行士。来年には3人で宇宙に暮らすなんてことになるんだから。」
「ちょっと鳥肌立ったなぁ。感動しちゃう。」

2人は、すっかりリラックスした様子で会話する。最初は緊張しきっていたアオも、だんだんと顔の表情が緩まっていく。

「だからここに来た時、僕らは、どこへでも行ける。何にだってなれる。ってすごく思ったなー。あの時みんなが必死に戦ったからこそ、この輝かしい未来が来たんだと思っています。地球に暮らす、全ての人に感謝したいです。」
「ちょっとソラ、なにいいこと言って締めようとしてんの(笑)」
「いいじゃんこれぐらい!じゃあ、生配信はこれぐらいで。これから私たちは、研究スペースに戻って、実験に入ります。」
「また時々生配信するから、よかったら見てねー!バイバイ―!」

アオがパソコンを操作すると、画面は黒く静止した。

「・・・はい、オッケー。生配信終わりました。」
「いやー緊張した。・・・まさか俺たちがもう既に宇宙人と共存してるなんて言ったらびっくりするだろうな。な、お前もそう思うだろ?」

風間夫婦のすぐ隣に、タコのような謎の生物が現れた。

「bdba@ud;id:ajiasdo」

常人には理解できない言語だが、
おそらく「そうだね」とか言っているようだ。



[了]



#宇宙SF  #ショートストーリー #2000字のドラマ

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