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小説『ひなたにもどる』

曇り空から、ぼんやりと太陽の輪郭が見えた。
気温15度。
暖かくも、寒くもない、2月の昼過ぎ。

私は大阪・難波のターミナル駅にいた。大きなスーツケースを持って、黒いワンピースに身を包んで、肩甲骨あたりまで伸びた黒い髪は束ねてポニーテールに。すこし周囲とは浮いた格好をしていた。

「まもなく、林間都市行き区間急行が発車します」

私は重たいスーツケースを引きずって、ギリギリで電車に飛び乗った。高速バスからの乗り換えに手間取って、急行に乗れなかった。しょうがなく、ひとつ下の区間急行で大学近くの家に帰ることにしたんだ。

電車に乗るときは、決まって一番後ろの車両に乗ることにしている。車両の一番後ろのスペースは、席が何もなかったり、逆に優先席があったり、いろいろな使われ方をしている。この電車は、二人掛けの普通の席になっている。その二人掛けのところに腰を下ろす。

午後のすこし傾き始めた太陽は
私に気を遣ってくれたのか、私の席を暖かい日向にしてくれた。


しかし、正月のときにはこんなに早く
もう一回帰省することになるとは思わなかった。

というかいま思えば正月からもう雲行きは怪しかった。

前から体調を崩していた母は、年明けにはすっかり寝たきりになっていた。本当はそのまま田舎に居たかったのだが、大学生で学年末テストやレポートの提出など、いろいろなことが待ち構えていて、後ろ髪をひかれる思いで九州から大阪に戻った。

そしたら、ちょうど全部片付いた授業最終日。
「もう無理かも」という父の短いLINEで
私はすべてを察した。

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