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小説『火花色の約束』

また、夏が来た。

六甲山の山々が、目にも鮮やかな若草色に染まる。その姿は、街からのどこからでも見ることが出来る。坂と山と港の街、神戸。

俺は、三宮の地下街の柱にもたれかかりながら、暇を持て余していた。今日はちょうど、神戸で一番大きな花火大会が開催される日である。待ち合わせ場所として有名なこの地下の広場にも、たくさんの男女が待ち合わせしている。


高校生最後の花火。俺は勝負をかけていた。
終業式の日、勇気を出して、片思いしている女子に声をかけて、一緒に花火を見に行きませんかと誘い出すことに成功していた。奇跡的にオッケーをもらえ、俺の心はすっかり有頂天に達していた。どんな服を着ようか、どんな感じで彼女をエスコートしようか、頭の中はもう今日のことでいっぱいいっぱいだった。

ところが、だ。
花火大会の当日、まさに今日。
いつまで待っても彼女が来ない。

既に2時間は待っただろうか。だが、一向に彼女らしき女の子はここに現れない。連絡もよこさない。LINEのトーク画面を開く。1時間前に送った「どうしたの?何かあった?」という俺のメッセージは、既読がついたまま何の反応もない。

「・・・遅い」
周りから見てもわかるぐらい、俺はイライラしていた。ものすごい勢いで貧乏ゆすりをしたり、せっかくセットした髪をぼさぼさにかきむしったり。一瞬、何があったんだろうと動揺させてしまうような程、目に見えてイライラする。

感情が態度に出てしまう性格であるゆえ、こんなことになってしまう。

4度目の貧乏ゆすりがさく裂しそうになった時。
形態の通知音が鳴った。

ようやく彼女からの連絡か、ずいぶんと遅いな、と俺はスマホを見た。しかし、画面に映し出された文面は、俺を愕然とさせた。

【ごめんなさい、急に風邪ひいてしまって、行けなくなっちゃいました!ごめんなさい!】

「・・・は?」

途方に暮れてしまった。

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