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小説とか詩とか

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瑞野が書いた小説や詩をまとめています。短編多め。お暇な時にぜひどうぞ。
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#創作

小説『私たちは何処へ往くのだろうか?』第六話

ひと段落し、ユウはベンチに座って、警官に事情を尋ねられていた。身柄処理が終わったレナが、ユウの隣に座る。 「はー、疲れた。久しぶりに刺激的なドライブだったわ」 「…」 「ごめんねー。怒った?有給取ってたってのも実は嘘。バリバリの仕事…仕事っていうか、捜査ね。黙ってて申し訳なかったんだけど、私、関西厚生局の麻薬取締官なの。」 レナの父親は、関西裏社会に精通する人物だった。しかし薬物密輸の経由地に使っている大阪港が、国際博覧会の開催に伴い警備が強化され、利用できなくなった。

小説『私たちは何処へ往くのだろうか?』第五話

初老の男とガタイの良い黒服集団、そして何かもぐもぐ食ってるデブの男。見たらわかる。父親と追っ手の集団である。とうとうラスボス登場か、と言わんばかりにレナは男たちに視線を向ける。 「おいユウ!いいから、こっちに帰ってきなさい!今ならお前のしたことは全部許してやるから、来い!」 「馬鹿言ってんじゃないわよ色ボケ親父!あんたは新宿二丁目のオカマバーでテキーラキメてケツの穴でも掘られてなっつの!」 「なんだその態度は!お父さんは二丁目になど行かん!歌舞伎町のぼったくりバーに行って店

小説『私たちは何処へ往くのだろうか?』第四話

車の中。フロントガラスには雨粒がぽつぽつと打ち付けていた。液晶時計は12時30分を差している。レナとユウは、腹ごしらえをするために路地の路肩に車を止めて、崎陽軒のシウマイ弁当を食べていた。 「なんで逃げなきゃいけないのにわざわざ崎陽軒なんですか。その辺のコンビニの弁当でもよかったじゃないですか。あと車止める意味もわかんないんですけど」 「いいじゃない、私崎陽軒大好きなの。それに、走りながらごはんなんか食べられるわけないじゃないのよ」 「…でも今じゃないと思います」 「あらあ

小説『私たちは何処へ往くのだろうか?』第三話

「彼氏には、別行動をお願いして。どこか一か所で合流してから行くより成田で合流した方が追っ手の目くらましにもできるしちょうどいいわ。それと、私大阪から有給取って来てるの。土地勘ゼロだしこっちの道そんなに詳しくないから、ナビゲートよろしくね」 2人はホテルの玄関を出た。 「そういえば、名前まだ聞いてなかったわね。私はレナ。あなたは?」 「ユウって言います。やさしいって書いて優」 「蒼井優の優ね。覚えたわ」 レナとユウは、雨の中ダッシュでレンタカー屋へと向かった。 ・・・・・

小説『私たちは何処へ往くのだろうか?』第二話

「ごめんなさい事情は後で説明するので助けてください!!」 彼女はレナに必死に訴えかけてくる。しきりに後ろを気にする彼女。追っ手がいるのか?レナは反射的に彼女の手を取って、公園の茂みに引きずり込んだ。そのまま身を伏せる。直後、追っ手と思われる黒服たちが、隠れていることに気付くことなく明後日の方向に走り去っていった。 しばらくして、茂みから出てくる。二人は雑草が服に張り付いているのを手で払いながらも、お互いに動揺を隠せずにいる。 「…ありがとうございます、急にこんなことに巻き

小説『私たちは何処へ往くのだろうか?』第一話

大阪府大阪市中央区大手前。かつて天下を手中に収めた豊臣秀吉が居所としていた錦城・大阪城が目前にそびえる。 そのほど近くの合同庁舎に、厚生労働省関西厚生局のオフィスがある。一番広い会議室の中、麻薬取締部・通称マトリに所属する警官や刑事の面々が、一堂に集結していた。整然と並ぶ捜査員たち。その中に一人、凛とした表情の女性がいた。白い肌、切れ長の目、きつく結んだ黒髪のポニーテール。育ちの良さを感じる、容姿端麗さである。 「桜木怜奈」 上司と思わしき男が、彼女の名前を呼んだ。

詩『理由』

どこまで行っても私たちは 川岸のように平行線で 海に辿り着くまでひとつになることはない 心をスキャンして気持ちを読み取れたら この世界に恋という字が生まれなかった 言えない気持ちを四苦八苦して 見えない未来に手を伸ばしてく もう遅いって言ったって知らない 誰にも引き留める権利はない 暗がりを彷徨う君を引き連れ ここではない何処かへ導いていきたい 何よりも強くなるために 君の側に居ることの意味を見出すために 例えば僕は桜の木で そんで君は楓の木 互い半周遅れで巡り合うよ

詩『空腹なライオン』

じわっと舌に突き刺すと 鈍い痛みでっかち頭で感じるんだ よっつ鋭く尖った僕の歯  牙ほど威力はない白い歯 いつの間にか失くした闘争心 奮い立たせてくれたのは誰? 遠くで嘲笑う声が聞こえたから 反射で脚が動いてしまったんだ 誰にも届かないぐらい遠いところへ行こうってね 思うままに走ればいいじゃない? 最初は1人で草むらかきむしるけど そのうち誰か着いてきてくれるでしょ 来なきゃ来ないでそれもいいし いつの間にか細くなった僕の脚 血の管浮き立つほど力を込めて 乱暴に大地を蹴

シナリオ『ニュース』

※これは複数人での公演・演劇練習を想定したシナリオ作品です。実在の企業・人物とは一切関係ありません。役名は特に設定していません。演じる人間の本名ないしは芸名で演じてください。 ・・・・・・・・ 【夕方のニュース番組。何個目かの項目が終わり、キャスターが中継リポートに振るところ。暗いニュースが続き、ここからは明るい中継リポートが始まるところである】 キャスター 「・・・ありがとうございました。では、今日のリポートです。神様に【神頼み】をした経験、誰もが一度はあるのではない

小説『THE ANGEL FLEW OVER DOWN TOWN』

交わしたはずのない約束に縛られ 破り捨てようとすれば後ろめたくなるのはなぜだ? 芯から冷える12月の末の夜。東京は爆弾低気圧の襲来によって記録的な積雪を観測し、その混乱は夜になっても続いていた。自分ひとりしかいない1DKのアパートの部屋の中で、俺は愛用の白い携帯ラジオを付けた。周波数のダイヤルはTBSラジオにずっと合わせっぱなしにしている。薄いノイズが混ざりながら誰かがリクエストした「drifter」が流れている。でもそれは、キリンジが歌った原曲の方じゃなくてBank B

¥300

詩『Nobody Knows』

子供の笑い声、大人の話し声 軋むレール、街頭広告、車、バス、信号 すべての音が交差していくこの場所で 私はひとり空を見上げる 雨雲の切れ間から差す光明が スポットライトのように街を照らす 差していた水色の傘を誰かが見ていた もう降り注ぐものは何も無かった 誰かのために何かできただろうか これまでの道を振り返るけど もう足跡は掠れて見えなくなっていた 濡れたアスファルトを西日が照らして 水溜りを空に戻してゆく そんな感じで私の心も 綺麗に報われたらいいのに 晴れた空に差