マガジンのカバー画像

小説とか詩とか

64
瑞野が書いた小説や詩をまとめています。短編多め。お暇な時にぜひどうぞ。
運営しているクリエイター

#大学生

小説『introduction』

「じゃあ、定期ライブお疲れ様でしたー!」 グラスが一斉に高鳴る。天王寺にある古ぼけた居酒屋。いつもサークルでライブを開催した後、決まってここで打ち上げを行う。今夜も、狭い座敷に部員がすし詰めになって酒を飲みかわす。 俺はいつも絡むサークルの仲間と話す。 「・・・どうなんだよ?卒業したらどうするんだ?」 「んー、まあ、音響関係の会社で働くかな」 「バンドは?」 「無理無理。プロで食っていけるほど才能ないし」 「けっ、お前もそれぐらいの奴か・・・」 俺は思わずがっかりしてしま

¥300

小説『One is not born a genius, One becomes a genius.』

One is not born a genius, one becomes a genius. 人は、天才に生まれるのではなく、天才になるのだ。 スカイブルー色のガラスでコーティングされたその塔。学生の頃からこの場所が大好きだった。暇を見つけてしょっちゅう登りに来ていた。登るとまるで、自分自身も空の一員になってしまったような、そんな気分になる。それが好きだった。上層階へ向かうエレベーターは全面硝子張りで、訪れる人々を瞬く間に天空の世界へ連れて行ってしまう。生憎、今日は激しい

詩『STONE』

心の向くままに歩いていたら いつの間にか方角を見失ったみたい 仕方ないから携帯電話でキミを呼んだ すぐに来てくれるって 1時間はかかるけど 気づかないうちに僕らの前を 通りすぎていく優しい日常 迷っていられるこの時間も ひょっとしたら幸せのカタチかもね 何となく、深い理由はないけれど 道端の石ころ蹴ってみた カラカラって軽薄な音して転がってく石ころ 何の迷いも躊躇いもなく 誰かの力で前へ前へ押し出されていく 僕らもまた そうであれたらなぁ 進むんだ ただ真っ直ぐに それ

詩『想いはまるで春のように』

人生にはどうにもならないことが たまにやってくるってパパが言ってた 私にはたぶん、それが今来ている あなたを目の前にして、今来ている 彼はそれをロマンチストのやることだって 半分笑いながら言ったの だから表で笑っておいて、裏でそのツラを殴った 誰にもこの気持ちを笑われたくなかった 君だってあるでしょう?そんな気持ちになることが 綴り書きの宛名を読まれる恥ずかしさより 堰を切りそうな言葉を正直に吐露したい 自分の理性が首をもたげてくる前に ギリギリで書ききってやるんだ 家

詩『usagi-orchestra』

柔らかい床の上で横になるうちに いつの間にか眠りについていたみたい ボクとキミは不思議な世界の旅人になっていた 地面すれすれを飛んでいく飛行機 どこまでも続く緑色の地平線 不思議な歌声のウサギたち 手にしていたのは扱いきれぬ謎の楽器 出逢ってしまったんだ 最高の仲間たちに ボクらは即席の楽団 ハチャメチャなリズムと楽し気な音程で ダレにも読み取れない曲を奏でようぜ 夢が楽しけりゃ それでいい そこらじゅうのぼろ切れ集めて大きな気球を作ろう それに乗ってもっと遠くへ飛んで

シナリオ『ニュース』

※これは複数人での公演・演劇練習を想定したシナリオ作品です。実在の企業・人物とは一切関係ありません。役名は特に設定していません。演じる人間の本名ないしは芸名で演じてください。 ・・・・・・・・ 【夕方のニュース番組。何個目かの項目が終わり、キャスターが中継リポートに振るところ。暗いニュースが続き、ここからは明るい中継リポートが始まるところである】 キャスター 「・・・ありがとうございました。では、今日のリポートです。神様に【神頼み】をした経験、誰もが一度はあるのではない

短編集『初期微動』

「忘れ得ぬ日々」 朝の大通り。 港の冷たい風が、ランニングで熱くなる体を冷やしてくれる。いつも走る決まりのコース。もうすぐ大きな橋に差し掛かる。一番厳しい坂道だ。いままで一度も止まらずに渡れた事は無い。   私はひとり、自分と戦っていた。   「いやーかっこいいなぁ・・・」 「誰が?」 「サッカー部のキャプテンで、容姿端麗、正確抜群。勉強も出来る。 漫画の主人公かってぐらいの好青年?」 「ああ、サクライ君?すごいよねぇ~」 「でも私たちとかじゃ相手にもしてもらえなさそう・・

¥100

小説『THE ANGEL FLEW OVER DOWN TOWN』

交わしたはずのない約束に縛られ 破り捨てようとすれば後ろめたくなるのはなぜだ? 芯から冷える12月の末の夜。東京は爆弾低気圧の襲来によって記録的な積雪を観測し、その混乱は夜になっても続いていた。自分ひとりしかいない1DKのアパートの部屋の中で、俺は愛用の白い携帯ラジオを付けた。周波数のダイヤルはTBSラジオにずっと合わせっぱなしにしている。薄いノイズが混ざりながら誰かがリクエストした「drifter」が流れている。でもそれは、キリンジが歌った原曲の方じゃなくてBank B

¥300

#140字小説『key』

Twitterであの人と同じ名のアカウントを見かけた。鍵が掛かっている。もう二度と出てこないでほしいのに。頭に浮かぶのは憎たらしくて、でも自分より透き通った瞳をしたあの人の笑顔ばかり。あの日分かれた道を、今も私は顧みてばかりいるの。 ねぇ、また笑ってみせてよ。褪せたフレームの中で。 [了]

#140字小説『Starting Over』

一人一人に「今までありがとうございました、またどこかでお会いしましょう」と伝えていく時の胸の切なさは、言葉にできない。本当はずっとここに居たい。でも、時間は待ってくれない。空っぽになった部屋の鍵を締め、硬い革靴で地面を踏み締める。 見慣れた街から、 最初で最後の電車が走り出した。 [了]

詩『Nobody Knows』

子供の笑い声、大人の話し声 軋むレール、街頭広告、車、バス、信号 すべての音が交差していくこの場所で 私はひとり空を見上げる 雨雲の切れ間から差す光明が スポットライトのように街を照らす 差していた水色の傘を誰かが見ていた もう降り注ぐものは何も無かった 誰かのために何かできただろうか これまでの道を振り返るけど もう足跡は掠れて見えなくなっていた 濡れたアスファルトを西日が照らして 水溜りを空に戻してゆく そんな感じで私の心も 綺麗に報われたらいいのに 晴れた空に差

#2000字のドラマ_小説『浅葱色ロングコート』

どうしてあのひとはいつも あのコートを着てくるんだろう。 出会った頃、わたしは不思議に思った。 理由を尋ねてもあのひとは答えてくれなかった。 緑よりも明るいけど、きみどりよりは少し暗い。 太ももの真ん中ぐらいまで伸びたロングコート。 秋から春の間はいつもあのコートを着ている。 いつもおなじなのに、中の服の着回しがいいから 別人のように見えるし、おしゃれにちゃんと見える。 そこが、あのひとの好きなところだった。 わたしとデートするときも、必ず着ている。 ふ

#2000字のドラマ_小説『スターティング・オーヴァー』

「選択肢を増やしたくて一応就活もしていて、内々定はもらったんですけど、やっぱり女優への道をどうしても諦められなくて。夏休みいっぱいは色々と考えてみようかと思っています」 そんな私の現状報告に、教授はこう即答した。 「就職しなさい。親御さんにも負担はかけられないだろうし、何より安定した仕事につくことが一番大事だろう?それがいい」 教授が軽く発した言葉に、失望した。 「はは。ま、そーですよねぇ〜。」 私は意見に同意するようなニュアンスの返事をして、軽く受け流そうとした。