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小説とか詩とか

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瑞野が書いた小説や詩をまとめています。短編多め。お暇な時にぜひどうぞ。
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#恋愛

詩『理由』

どこまで行っても私たちは 川岸のように平行線で 海に辿り着くまでひとつになることはない 心をスキャンして気持ちを読み取れたら この世界に恋という字が生まれなかった 言えない気持ちを四苦八苦して 見えない未来に手を伸ばしてく もう遅いって言ったって知らない 誰にも引き留める権利はない 暗がりを彷徨う君を引き連れ ここではない何処かへ導いていきたい 何よりも強くなるために 君の側に居ることの意味を見出すために 例えば僕は桜の木で そんで君は楓の木 互い半周遅れで巡り合うよ

詩「衛星軌道」

「君が好きだ」という陳腐な言葉で 僕はこの旅にピリオドを打った ふたりが描いたふたつの線は この空に確かな軌道を描いてきた 褪せたシャツでも外に出れた 夏のふざけあった坂道 埃っぽいコートをびしょ濡れにした まだ誰もいない雪野原 覚えてる 覚えている 昨日のことのように思い出せる 瞳のカメラと頭のメモリーでいつでも呼び出す きょうも、あしたも、そのさきも きっとこの軌道は伸びていく 穏やかな空の下を電車は行きかう 無数のカメラとフィルムを満載にして その一つ一つに無限の

#2000字のドラマ_小説『スターライトマイン』

梅雨の晴れ間、晴れた空に洗いたてのシーツが映える。ひらひらした布は風に乗り、雲のようにふくらむ。あー映える。ほんとに映える。インスタにでも載せたい光景。 でも、今の私はそんな気分じゃなかった。 っていうか、そもそも仕事中だし。 「よかったわねー。天気が良くて助かったわ」 「洗濯物、片付きましたね」 私は保育士。春から大学を卒業して保育園で働きだしたばかり。先輩の先生方に助けられながら、慌ただしい毎日を過ごしている。 時間は昼過ぎ。昼休みが終わって、遊び疲れた子どもたち

小説『One is not born a genius, One becomes a genius.』

One is not born a genius, one becomes a genius. 人は、天才に生まれるのではなく、天才になるのだ。 スカイブルー色のガラスでコーティングされたその塔。学生の頃からこの場所が大好きだった。暇を見つけてしょっちゅう登りに来ていた。登るとまるで、自分自身も空の一員になってしまったような、そんな気分になる。それが好きだった。上層階へ向かうエレベーターは全面硝子張りで、訪れる人々を瞬く間に天空の世界へ連れて行ってしまう。生憎、今日は激しい

詩『幸福成分配合リキッド』

僕たちにはいろんな愛情の表し方があって そのひとつひとつを味わうたびに こころにポタポタと溜まっていくんだ 優しさという名の香水がね 手首に吹きかければ 砂糖にも似た甘い香り漂う 胸の白い肌にすりこませれば じんわり心臓の奥底が暖かくなっていく きょうもそうやって みんながくれる言葉をすこしずつ あなたのくれる言葉をすこしずつ 僕は綺麗な心の瓶に貯めていくんだ 素敵な匂いのする 優しさのリキッドを 目が合うたびに どこかですれ違うたびに あなたが僕にくれる秘密のサイン

詩『instant camera』

君から見える世界 僕から見える世界 どっちの方が綺麗とかそんなんじゃない どっちの方が鮮やかとかで比べられない それぐらい違って それぐらい面白い 君から見えるあの人と 僕から見えるあの人も どっちが大人とかは決められない どっちが魅力的とかで測れない 君が想ってる未来 僕が想ってる未来 もしかしたら違うかもしれない でも少しずつ話して擦り合わせればいい 君は君のレンズで目の前を見つめて 僕は僕のレンズで同じ景色を見つめて それ以外にはなにもいらない ややこし

詩『シャンプー』

愛が終わる瞬間って どんな感じなんだろう 漂い出す空気から何かを察するのか 何のサインもなくあっけなく幕が下りるのか 察しの悪い僕には 想像することもできない 僕らの毎日は 何事もなく過ぎていく 昨日をほぼオートリバースするかのように 綴られていく生活 そこにある 洗面所のゴミ箱に 封が開けられたテスターが捨ててある 僕は溢れそうになってるゴミ袋の 口を結んで捨てておいた ふいに君が横を通りすぎて 柔らかな髪がゆるりとなびいた 鼻を突いたその香り いつもと違う君を僕に

詩『新大阪駅26番線ホーム』

「またどこかで」を言おうとして ドアが閉まってしまったんだ 別に言いたくなかったわけじゃない 勇気がなかったわけでもない 君に恐らくもう会えない未来を 心が認めたくなかったんだろうな 2人が選んだ片道切符だから それ以上は何も言わないって決めていた 肌寒い朝のホームに立つ君の手を そっと優しく握るだけにしておくんだ もっと遠くまで彼女を連れて行って いっそ遠くまで彼女を連れて行って 僕が影も形も見えなくなるぐらい遠くまで 彼女の未来よりももっと明るい方へ ねえ、君が幸せ

詩『想いはまるで春のように』

人生にはどうにもならないことが たまにやってくるってパパが言ってた 私にはたぶん、それが今来ている あなたを目の前にして、今来ている 彼はそれをロマンチストのやることだって 半分笑いながら言ったの だから表で笑っておいて、裏でそのツラを殴った 誰にもこの気持ちを笑われたくなかった 君だってあるでしょう?そんな気持ちになることが 綴り書きの宛名を読まれる恥ずかしさより 堰を切りそうな言葉を正直に吐露したい 自分の理性が首をもたげてくる前に ギリギリで書ききってやるんだ 家

短編集『初期微動』

「忘れ得ぬ日々」 朝の大通り。 港の冷たい風が、ランニングで熱くなる体を冷やしてくれる。いつも走る決まりのコース。もうすぐ大きな橋に差し掛かる。一番厳しい坂道だ。いままで一度も止まらずに渡れた事は無い。   私はひとり、自分と戦っていた。   「いやーかっこいいなぁ・・・」 「誰が?」 「サッカー部のキャプテンで、容姿端麗、正確抜群。勉強も出来る。 漫画の主人公かってぐらいの好青年?」 「ああ、サクライ君?すごいよねぇ~」 「でも私たちとかじゃ相手にもしてもらえなさそう・・

¥100

詩『ideal』

天気のいい日には部屋の窓を開ける 外と内を一緒にまぜこぜにして 窓辺に座って考え事をしよう お湯が沸くまで考え事をしよう この間新しい服を買ったんだ 君が気に入ってくれそうな可愛い柄のシャツをね もうすぐ届くから見せてあげるよ 似合ってるってたくさん言ってほしいんだ うれしいときはふたりがいい どんなことでも君が褒めてくれるから 君がもっと僕を嬉しくさせてくれるから たのしいときもふたりがいい 何でもない日々でも楽しくなるから 毎日を君と僕で特別な日に仕立てるから か

小説『That was very fresh to me.』

風の音が聞こえる。 ひゅうひゅう、ひゅうひゅうと。 私の胸を、足を、肩を、頬を、風はするりするりと掠めてゆく。渓谷を勢いよく駆け下ってくる混じりけのないピュアな空気。美味しい空気という手垢の付いたフレーズを使うのが相応しくないぐらいに、とても美味しい。 来た道を振り返ると驚くほど急な下り坂が伸びていた。登っているときは実感しないものだが、想像以上に厳しい山道を登っていたことを知る。普段仕事をしているときは完全なデスクワークでちっとも体を使わない。山に行かないうちに随分細身

¥300

#2000字のドラマ_小説『浅葱色ロングコート』

どうしてあのひとはいつも あのコートを着てくるんだろう。 出会った頃、わたしは不思議に思った。 理由を尋ねてもあのひとは答えてくれなかった。 緑よりも明るいけど、きみどりよりは少し暗い。 太ももの真ん中ぐらいまで伸びたロングコート。 秋から春の間はいつもあのコートを着ている。 いつもおなじなのに、中の服の着回しがいいから 別人のように見えるし、おしゃれにちゃんと見える。 そこが、あのひとの好きなところだった。 わたしとデートするときも、必ず着ている。 ふ

#2000字のドラマ_小説『君と出逢った奇跡』

私はどうしても突き止めたかった。放送部が毎日流すお昼の校内放送。そこにいつも私が大好きなスピッツをリクエストしてくれる子の正体を。しかし、その正体が誰なのかを特定するのはとても難しい。私の学校は中高一貫校。とてもたくさんの生徒がいる。校内放送で毎日流れる音楽。そのリクエストを書き込むカードには、本名を書くところがない。ペンネームとタイトル・アーティスト名だけでリクエストできるのだ。 「・・・それで、リクエストボックスの前で張り込みを?」 「そう、徹底的に張り込んで見つける