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小説とか詩とか

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瑞野が書いた小説や詩をまとめています。短編多め。お暇な時にぜひどうぞ。
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2022年6月の記事一覧

詩『理由』

どこまで行っても私たちは 川岸のように平行線で 海に辿り着くまでひとつになることはない 心をスキャンして気持ちを読み取れたら この世界に恋という字が生まれなかった 言えない気持ちを四苦八苦して 見えない未来に手を伸ばしてく もう遅いって言ったって知らない 誰にも引き留める権利はない 暗がりを彷徨う君を引き連れ ここではない何処かへ導いていきたい 何よりも強くなるために 君の側に居ることの意味を見出すために 例えば僕は桜の木で そんで君は楓の木 互い半周遅れで巡り合うよ

短編小説『ロックバラード』

私の夢は二度と叶うことがないと分かった日。 私は家で一日中泣き叫んでいた。 堅く閉ざされたドアの前で、母親は何も言わず黙って立っていた。私が泣き止む朝まで、側にいた。私が目を腫らして部屋の外に出てくると、壁にもたれかかったままスヤスヤと眠る母が居て、思わずちょっとだけ笑みがこぼれてしまった。あの日々に、私は一体何を見出せばいいのだろうか。少なくとも、まだ幼い自分にその答えはすぐに出せなかった。 フェリーは苫小牧の港へ着いた。 まだ夜も明けきれぬ冷たい北の町には、真夜中程

¥300

詩『花を飾る』

家の窓に萎れた花ひとつ 水のなき瓶に刺さりけり 色の無い薄汚れた花弁一つ はらはら鮮やかに枯れている 輝きを失った生活 振り子のように 馬車馬のように AとBの往復続ける毎日 ときおり人はそれを憂いて どこか遠くへ身を放り出す けれど己に繋がれたる鎖の長さを知り かえって虚しい感情を沸き立たす 瓶を洗う。 ほこり取れて輝き取り戻す。 透き通るその体に映るもの 彩りを少し忘れたひとりの大人。 僕を洗う。 汚れ取れて光取り戻す? 薄肌色のその体に宿すもの 幸福を問う疑問

詩「衛星軌道」

「君が好きだ」という陳腐な言葉で 僕はこの旅にピリオドを打った ふたりが描いたふたつの線は この空に確かな軌道を描いてきた 褪せたシャツでも外に出れた 夏のふざけあった坂道 埃っぽいコートをびしょ濡れにした まだ誰もいない雪野原 覚えてる 覚えている 昨日のことのように思い出せる 瞳のカメラと頭のメモリーでいつでも呼び出す きょうも、あしたも、そのさきも きっとこの軌道は伸びていく 穏やかな空の下を電車は行きかう 無数のカメラとフィルムを満載にして その一つ一つに無限の