36枚の夢
デジタルで仕事を受けて、デジタルしか使わなくなった頃、ふと気がついた。
フイルムって36枚撮りでしたよね?
12枚とか24枚もあった。36枚でチャンスをモノにしなきゃならんのだけど、30枚超えると仕事にもよりけりだけど、詰め替えていた。予備のカメラもあるけどレンズの画角だったり、フラッシュついてなかったり、設定が違ったりと融通が効かない状況だったりもする。
俺が働き始めた頃はD2xとD200を支給されてて、先輩方はD3とD300を使っていた。予備にそれぞれフイルムを一台の三台一セット、レンズは300mmと24〜70mm、50mmだった気がする。
で、結論、仕事の36枚の縛りはプレッシャー。
最近はカメラに詰めっぱなしのフイルムに何写ってるかもう覚えてない時もあるw
「サラリーマンの温泉でのんびりしたい」っての、カメラマンでいうところ「ライカ持って写真撮りにいきたい」ってのに通ずるものがあると言っていたカメラマンがいた。なるほど。確かに俺もRF機だけ持っているとのんびり過ごしている気分になれるし、心底気構えずに写真が撮れる。しかもフイルムだと尚、気楽だ。気楽というか、自分の中で休日感が増す。
レンズ一本、ボディ一台、フイルムは一日一本。デジタルだとバシバシ撮るところを「あーこれは撮らんてえーかー」とか思う。「とりあえず撮っとけ!!あとからどうにでもならぁ!!」と思わなくていいだけいい。怒髪天を衝くような状況にならないだけいいじゃないか。
技術とかセンスの問題は多少のことで、一定時期以降のカメラを使っていれば多くの課題は機材が解決してくれる。じゃあプロとアマチュアの違いとはなんだろう?
多分、一枚に対する思考量と集中力じゃないだろうかと思う。
機材の差って気分の問題で。報道部だった時、上期下期だか月間だかで、編集長から表彰されるということがあった。多分、上下期ごとだった。その時、結構な衝撃的なシーンを出勤途中の先輩が撮影、号外か夕刊のトップに載った。これが常に持ち歩いていたコンデジで撮られたものだった。表彰時に
「いやーコンデジも持ち歩いてみるもんですねー」
と頭を掻きながら笑っていた。その背後で般若か鬼神ですかという表情に豹変する編集長。心構えがなっとらんとブチギレていた。以後、報道部はバッテリーグリップを会社に置いて、通勤時も一台カメラを持つようになった。
カメラとかフイルムはボールペンみたいなものと言っていた人がいた。
「いいボールペンで書いた字は字が上手くなった気がするし、気持ちがいい」
とのこと。なるほど気の持ちようだ。
そう言えば昨日、十数年ぶりにSNSで連絡をくれた知り合いがいた。偶然見つけてそうじゃないかと思って連絡したと。数少ない下の名前で俺を呼ぶ人だ。もう下の名前で俺をを呼ぶ人は随分少ないし、知ってる人も少ない。
来月の頭にでも会おうという話になった。彼は俺のことを詳細に覚えていた。彼と付き合いがあった当時、何を使っていただろう。多分、F3かF2じゃないだろうか?
どうせ会うなら彼の写真を撮らせてもらおう。折角、果たした過去との邂逅だ。ケータイをなくしたら人間関係もなくなってしまうような現代で、偶然もう一度会えたなら未来に残す価値はあるだろう。俺の記憶が正しければかなり美形だ。女の子みたいな人だった。
フイルムは何がいいだろう?カメラはどれにしよう?折角だからチェキも持っていこう。そう考えるとプライベートの写真というのは仕事よりも考えることが多いかもしれない。
ファインダー越しにみる彼は何をしてこの十数年過ごしてきたんだろうか。付き合いがあった頃に一枚くらい撮っておけばよかった。
なんだか今から楽しみだ。