【AIがすべての芸術を生み出すようになった社会】第9話

「凄い……」

 誰かが呟いた。そちらを一瞥してから、コートのポケットに手を入れて、ロボットの残骸の山の上にいる篝を、青山は見上げた。篝は両手で、芸術家の亡骸の首を絞めている。既に頭部は破裂して飛び散り、ダラダラと首から下を、飛び散る血液が染め上げている。今回の芸術家は、ロボットを用いて商業施設を〝飾ろう〟としていたらしい。

「被疑者死亡、制圧は完了した。事後処理は任せた」

 そう冷淡な声で告げてから、青山は指輪経由で篝の首輪に指示を出す。
 即効性の鎮静剤の注入させると、ガクンと篝の体が揺れ、ロボットの山から仰け反るようにして落下してきた。嘆息してから、青山が抱き留める。すると朦朧とした様子で虚ろな瞳の篝がよく見えた。腕の中にいるからだ。

 そのまま抱き上げて車に戻り、後部座席で青山は篝を見る。
 篝が芸術家を排除している内に、本部に連絡を取って意見を仰いだ結果を告げようと考える。その前に、褒めなければならないかと、青山は思い直した。

「よくやった」

 簡素な言葉だったが、青山はそれで構わないだろうと判断する。
 なにせまだ、篝の瞳の焦点は合っていない。

「さて話の続きだが、二つ目の希望――基本的には却下で申請は通らなかった。理由は芸術家を一般市民と同じ住宅に住まわせることは出来ないからだ。監視外に置く事は出来ない。ただ逆に、俺が一緒であれば一定の自由は与えられる。よって、上層部の判断で、俺の家で暮らすようにと決まった。俺の家で、好きなだけ家事をすればいい」
「……」
「今から連れて行く。三つ目の希望は、次に自我が清明だと首輪が判別した段階で問う」

 その言葉を聞いてすぐに、篝は眠るように意識を落とした。
 自分の肩にもたれかかってきた篝を、不機嫌そうな顔で青山は見ていた。


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