みずのーとvol.6『脳内彼女』

「そこの君!君だよ!!!ベージュのニット着たロングの君!!!」

「あ、私ですか…?」

「そうそう!!いやぁかわいい子見つけたなぁって思って、ちょっともう結論から言っちゃうとね。スカウトしたいの」


「えー!!!!スカウト!!なんですかアイドルとかですか!?私めっちゃ好きなんですよね!」

「えーっと、アイドルじゃないけどまぁ捉え方によってはアイドルかな…??これ見ておくれよ!」

そう言うと男は資料を手渡した。


「えっと…?脳内彼女…?」

「そう!君には脳内彼女になってほしいんだ」

「いや既存の言葉みたいに言わないでください。」


最近バーチャルとかVとかたまに聞くようになったから、そういう仮想空間にも少しは慣れてきたつもりだったけど。こんなのイマイチ想像がつかない。なにこれ。


「いやぁさ!簡単だよ!!!まだ日の目を浴びてないから聞き馴染みのない言葉かもしれないけどさ!ってか正直、君は特に何もしなくていいんだよ!!」

「えっと頭の中追いついてないんですが……結局何なんですが脳内彼女って。」


「ほいほい!じゃあ説明するね。世の中には彼女が欲しくても、周りに出会いがあるなんて状況の方が珍しい!このままでは恋愛離れが進んでく!そう思わないかい?」

「それは飛躍しすぎですけどまぁ確かに出会いは少ないですね。」


「そこで!男たちが恋愛を疑似体験できるプログラムを開発してるんだ!彼らに特殊なゴーグルをつけてもらうことで、目の前にバーチャルの彼女が現れる。そこで彼女との触れ合いを体験してもらう。そうすることで幸せになってもらうんだ!」


「ほうほう…??」

「で、そのためには可愛い女の子のデータが足りないんだよ!だからちょっと面談したり、いろんな角度から写真撮ったりで彼女サンプルを集めたいってことなの!」


「ほうほう…?????」

とは言ってるものの、さっぱり分かってない。


とりあえず、男たちがゴーグルをつけることによってバーチャルの彼女が見えるようになるらしい??

そこで恋人の体験をする…ということだろうか。


しかし流石によくわからないのでお断りしようと思ったが、次の男の言葉で気持ちが揺らいだ。


「もちろん今回使用したデータはその目的以外では使用しませんし、なんなら報酬もたんまりございます!」

「えっ」

「あまり大きな声では言えませんが…」


本当にいいの!?っていう額。

これならちょっとぐらいサンプルになっても…と思ったその時

「あー!!!遅れてごめーん!!!」

知らない女の人が現れ、私の手を取ってきた

「え?」

「え?じゃないでしょ今日ここで待ち合わせだったでしょ!?ほら早くしないと映画始まっちゃうじゃん!」


突然の状況に理解が追いつかないでいると、急に現れた人が小声で囁いた。

(いいから私の話に乗って。ここから逃げるよ。)


「…う、うんそうだったね!ということですみません今からキセルの刃無賃乗車編を見に行くんで!だからお兄さんごめんなさいこの話はまた後で…!」

そういうと私は女の人とダッシュでこの場から逃げた。

「え、ちょ…」






私達は走り、人通りの少ない道まで進んだ。

「ハァ…ハァ…流石にここまで来れば…。急にあんなことしてごめんなさいね。」

「いえ…それより何かあるんですか…。あの声かけてきた人のことですよね?」


そう言うと女の人はより真剣な表情を抱えた。

「あぁね…実は私警察でさ。この辺りでおかしなことが起こってるから調べてるの。」

「おかしなこと…?」


「この辺りでさ、男一人で歩いているのに、恋人といるかのように独り言を呟いてる人をよく見かけるんだよね。で、その男は謎のゴーグルをかけているの。」


先程男から聞いた話と一致する。

「それがアレなんですよね?脳内彼女で恋愛を体験するみたいな…。まぁ確かに外部からの見た目は少し気持ち悪いかもしれませんが」


「いやね、見た感じさ、彼らはそういうものをやっているという自覚が無さそうなんだ。」

「…えっ?」

「憶測だが、あのゴーグルには脳波を操るような何かが出ている。それで彼らは本当に彼女と一緒にデートしていると錯覚している…そのように見えるんだ。」


彼女の発言に驚きを隠せなかった。

バーチャルと知った上で楽しむものかと思っていたが、こんな洗脳みたいなことがあって良いのだろうか。


「で、調べていくうちにあの男たちの組織が関係していることがわかって…あなたも巻き込まれそうだったからこうしたってわけ。」

「あっ…助けていただきありがとうございます!」


「いやいいよ。警察として市民を守るのは当然なんだから。…しっかし悪趣味なものもあるもんだねぇ。彼らはああで幸せなんだろうか。」

「あー…確かに自分がゴーグルによって錯覚させられてると気づいたらガッカリすると思いますが。んー気がつかなかったら、それでも彼らは幸せなんですかね?」


「さぁね…。それでも良いって人もいてそのための事業なんかもしれないけどね。」

「私も嫌ですねぇ…自覚してないとはいえ自分じゃない経験を与えられるのは生きてる心地しないな」


「でも君、今そのゴーグルを絶対かけてないって言いきれる?」

「…え?」

突然の質問に少しハッとしてしまった。


「なんてね、ごめんね。…それにしても、この事業何か裏がありそうなんだよね。あんま私はそういうの信じてないけど…」

「信じてないって…?」

「あ!!いや忘れて!危ね流石にこれ言ったら上にボコられる…」

「?」

結局その話はよくわからなかったが、私はこのあとも少し話して警察の女の人とは解散した。






帰り道、ゴーグルをかけている男の人を見た。


…どこか妙だった。


ホテルに行こっかとノリノリに発言しているが、彼が向かっているのはどう見てもホテルではなく、古びた小さなビルのような建物。


ついにホテルとビルの違いもわからなくなってるのか…とも思ったが


一人じゃない。

何人もの男が次々とこの建物に入っていく。


しかも、全員何かに取り憑かれたようにそこへ向かう。


流石に気味が悪くなってきた。

この場から逃げ出そうと走り出したが、カメラを持った男の人とぶつかってしまった。


「あっ!ごめんなさい!!」

「いてて、大丈夫だよ。」


一礼して、私は一目散に家に帰っていった。

今日ことはもう忘れたい。

何か不気味なものを合間見た気がした。







「はぁ…とりあえずカメラに傷つかなくて良かった。」

「オカルト研究員として、ここで実際にUFOを見るまで俺は帰れねぇぞ。






















この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?