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【詩のようなもの6編】春日遅々

【春日遅々】

自分のことで精一杯の証拠か

必要以上に根を詰めて奔走

陽気な他人の笑い声が少し耳障り

時間の流れは平等の筈なのに

君の変わっていく姿は異様に早く

特に前触れもなく訪れる別れ

悲しくもないけど嬉しくもなく

ゆっくりとゆっくりと陽が暮れる春

【塞げるまで】

どんよりした雨の中
昨日までの自分が嘲笑う

君のためなら幾らでも
愛嬌を振り撒き尽くし
イエスマンであろうとした

今はそんな自分があまりに滑稽で
空いた口が塞がらないまま
呆れに呆れてる

少しずつ記憶は良いものだけ
雨が降る度残っていくのに
より強固に塞げるまで右往左往

熱にうなされて視界が掠れても
明日が自分のものにならなくても
今度君と会う時は君の知る僕じゃない

怨憎会苦を塞ぎ僕が僕でありながら
君の心を浸していきたい

晴れていく青空の下を駆け抜けるために

【防腐】

部屋のベランダで今日は一人
青空に慰めてほしくて
缶ビール片手にぼんやり

退屈の繁忙期が続き
喧しい選挙カーに苛立ち
カラスの群れに叫ぶ

青春の思い出より
昨日のR18映画を観た記憶と
積み重なる今現在の状況に
腐りかける魂

何処に行く気もならず
開けっぱなしの冷蔵庫が遠目に見え
憂鬱の冷気がこちらへ

ゆっくりと冷えて陽が落ちて
街の声が静かになるのに
僕はより目が冴えていく

大事な人は今更いない
それでもよければ僕に防腐剤を

明日もまだ目的のない寝食に
虚ろな眼差しが映すのは
遠い悲しみのツケばかり

朝が来る少し前に
そっと汚れきったベットへ

【病んでいるわけじゃない】

口癖のように
口遊むように
放たれてしまう一言
「...消えたい」

誰に向けたのか
今になっても分からないまま
味のわからない冷凍食品を
最後の晩餐に決めるあたり
執着のなさが少し笑える

甘えなのは分かってる
歪んでるのも分かってる

希望が見えないのは
自分で自分を苦しめてるから

続く無駄遣いと謙り
平坦な道中に咲く桜の木
もうすぐ春が終わることに
響く別れの言葉をまた一つ胸に刻み

ここまでだらだら紡ぐも
別に死にたいわけじゃなく
絶望しているわけでもなく
病んでいるわけでもなく
ちょっとだけ今の生活が
愛おしいとも思っているから

凡人の世迷言よ
真に受けないでね

朝陽を待ちながら
夜の遊歩道に沿って歩くのは
病んでいるわけじゃない独りの人間

【心機一転】

ある日見た夢が示す道標

誰かに言える程の話じゃないけど
心機一転するには丁度いいきっかけ

馬鹿げた話なのも分かってるけど
散々人の機嫌を伺ってた僕からすれば
自分のために生きる心機一転

前途は全く見えてないのに
成功体験があるわけでもないのに
今日だけは見た道標に沿って歩きたい

【老夫婦】

じいちゃんばあちゃん
五十歩共に歩いて
二十歩互いに手を取り合って
残りの一歩一歩を褒め合ってる

過去の話はもうしない
何が正しいかも語らない
でも自分達の生き方に
背筋を伸ばしたまま笑ってる
その姿は偉大にすら思う

まだいくつも夢を持って
知らないものを知ろうとしてる
その姿勢に泣けてくる

食後のお茶
早朝の散歩
寝る前の読書
ほどよく血流を循環させて
睡眠の質にも拘りながら
一日を大事にしてる

どんな過去を持っていても
絶えず心を動かして
喜びを分かち合うように生きてる
今のじいちゃんばあちゃんは
憧れであり敬いたい存在

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最後まで読んでくれてありがとうございました。

水宮 青