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【詩のようなもの6編】春の霜

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【勤労者】

ビル群の中に囲まれて打たれた雨
清らかなものでもなく
健やかなものでもなく
ただ明日が乾かないように
今日の汚れを隠してるだけ

走った先で絡まれる文明の理屈
喜怒哀楽で飽和する常世の退屈
どんぐりの背比べは世界を巡る

水溜りが出来ても金に変えて
大樹が腐っても火で炙って
土に還る前は月を見て
まだ君を想うことは可能だろうか

何もかも晴れない
灰色の雲に同化した言い回しは
濡れた服を越して体の奥まで
染み込んで昨日の友も離れていく

今はもう歩くことすら疲れ
傘をさしても手遅れ
僕がここから見えるのは
新しくビル群が並ぶその下で
命を燃やす勤労者

【キャンプファイヤー】

勢いよく我儘が回る
愚行と分かっていても
眩暈を覚えるような世相が
其れの加速度を上げる

焼いた述懐が形を変えて転生
そんな馬鹿な話が現実的な
理想論に早変わり

昨日までのイメージとは違う
赤から青へ
白から黒へ
位置付けも色付けも綽々と
言葉と共に今日の真ん中へ

広がった世界の中の局地だけ
ぽつぽつとテントを立てて
表層の知識で火を起こし
準備不足を補うために
加速した勢いを求めて
閉塞感を片手にキャンプファイヤー
勢いの良い炎が舞い上がる

愚行と分かっていても
眩暈を覚えるような世相が
其れの加速度を上げる

【注意点】

線引きされてはいる様
されど
透明の壁に囲まれてる様
ならば
入り組まれた現代色を塗ろう

あの日の翳りは改装すれば
回想に浸る間もなくモダナイズ

猛省ばかりで見当たらない回答
シュールな議論眺めて見失う方向

風当たりは増し増し
口を開ければ入ってくるのは
世知辛い注意点と相違点
解釈はより複雑に

後ろ指を立てて
後ろを向くことを忘れて
見えない悲しみは
欠如した優しさに殴られる

曖昧模糊の注意書き
言葉数の足らないタイトル
響きの足りない情緒
投げやりな夢を抱えたまま
今日も注釈文に踊らされている

【暖かい風】

空虚な言葉が風に舞う
いつも以上に暖かい中
遠くの嵐に戦々恐々
腐食した勢いも風に乗る

未だ変わらないことを
治るのが遅くなった痛みに
擦りつけて放ったらかし
その日が来るまで風を切る

瞬きするたびに潤うより渇く
懐かしい景色はぼやけて
信じきった思い出も焼けて
思い出すことない今だけが
緩やかで穏やかな風が靡く

仕方ないから諦めて
浸り過ぎた暖かい風に
羞恥を抱くことすらなく
目に見えた優しさだけに
後の祭りの骨は灰になる

【おあしすを】

渇いた場所で眺めている
大きな渦巻くおあしすを

そこに集まる老若男女
水を得た魚もいれば
弱さに溺れていく人もいて
十人十色の痛みと試み

酷くなる格差に画策する各々
泳ぐ場所も徐々に減り
どこか分からず迷っては渇いていく

理想郷といえるほど
高尚な楽園は今も昔もなく
郷里の郷に従いながらも
今日の日を眺めておこう

いずれ気付くその時を
渇いた場所で眺めている
大きな渦巻くおあしすを

【春の霜】

残雪を見逃して
延命の暮らしは未だ続く
歯痒い時節柄は凍ったまま
瞬きの重さは鈍る

僕は性懲りも無く
太々しく他人の思い出話に
耳目をそば立てて
屍になる前の余暇を濁す

秘密主義に憧れては
隠す秘密すら無い浅はかさと
春の霜は僕に変わらず積もる

同時に何かを失いながら
着々と

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最後まで読んでくれてありがとう。

水宮 青