【感想】熊本くんの本棚
カクヨムコン4でキャラクター文芸部門の大賞を受賞された、キタハラさんの「熊本くんの本棚」書籍版が発売されました。
web版を何度も何度も繰り返し読んだ、私の大好きな物語。そりゃ買うよね! さぁ買うぜ! と意気込んで書店へ赴きましたところ、私の住む九州地方では二日遅れでした。地域格差……!
気を取り直して再度書店へ乗り込んだ日曜日、日本文学の棚で平積みになっているのを見て、心の中でガッツポーズが出ました。よっしゃー! 自分の著書でもないくせにって言われそうだけど、初めて読んだ時からずっと、自分の本棚へ書籍版をお迎えする日が来ればいいなと思っていたので、念願叶った感じでした。
帯にweb版レビューの一部を掲載して頂いております。
めちゃくちゃびっくりしましたけど、それ以上に嬉しかったです。おそらく二度とないであろう、素敵な経験をさせて頂きました。ありがとうございました。
感想を書くのは不得手なので、ただの感情の記録になってしまうと思いますが、どうか優しい視線でお付き合いください。
web版を繰り返し読んでいた時、私はいつも泣いていました。
熊本くんと、みのりちゃん。二人が一緒にいる時の空気と、それぞれが見ている世界との落差。それがあまりに悲しくて、ずっと一緒に仲良くごはんを食べててくれよ……なんて、そんなことを思ったりしていました。
語り手の二人だけではなく、周囲の人たちのことも思いながら、世界へ潜り込むように読み進めます。寄り添いたくなったり、抱き締めたくなったり、時には自分自身と重ね合わせたりしながら、人間の存在を形成するものについてとか、人と人を結ぶ形の在り方のようなことを考えます。
帯にもあるように「気持ち悪い」と形容(称賛)されることのある物語です。私みたいな読み方をするのは、もしかすると少しおかしいのかもしれません。しかし私は一度たりとも、この物語を気持ち悪いと感じたことがありませんでした。私はただ、ひたすらに彼らが愛おしかったのです。
書籍版でも、やっぱり最後は涙が出ました。熊本くんに泣かされるのは、いったい何回目なのやら……それでもまた、何度も繰り返し読むと思います。私にとっては、何度読んでも褪せることのない物語だから。
web版にはなかった最終章を読んだ後も、きちんと最後の最後まで、自分が惚れた物語でした。正直に言えば、加筆でイメージが壊れて萎えることを少しだけ警戒していたんですが、それは完全に杞憂でした。みのりちゃんはどこまでもみのりちゃんだった。
ああ、これで本当に「熊本くんの本棚」は完成したんだな――最後まで読み終えた時、私はそんな風に思いました。読者側で一度は納得した物語を、違和感なく深化させていく技量。キタハラさんは、本当にすごい。とんでもなく、すごいひとだ。
刺激的で毒気のある作品ですけど、そこに癒しや救いの力が内包されているのだと、勝手に考えていたりします。そういう捉え方は少数派なのかな。どうなんだろう。わからないけど、そういう力が確かにある物語だと、私はそう信じています。
この荒々しくて美しく、容赦なく残酷で、そして深く優しい物語が、もっと多くの人のところへ届けばいい。
そんな事を、私はずっと思っているのでした。