ソファとブランケットとビールの女ひとり酒
三連休の真ん中、西日が部屋に差し込んだ頃、お出かけしようと決めた。
お出かけしようというか、しなきゃだった。ある種の強迫観念が私を襲う。日が暮れたら間もなく、一日が終わっちゃう。夜になる前に外へ出なくちゃ。
出不精とは真逆のタイプなのか、私は一日中部屋にこもることを良しとしないタイプの人間だ。劇的なイベントがなくったって日光を浴びながら街を歩きたい。一日一日を丁寧に消費したいという欲求。
簡単なメイクを済ませ緩めのデニムを履いて外に出ると、オレンジ色の西日で暖かそうに見えていた空気は実は鋭く尖った冷たさで、そこは紛れもなく真冬の街だった。
マフラーで頑丈にあごから下を覆って、両手をコートのポケットに突っ込んだ防寒スタイルで少し遠くに足を延ばした。諦めたくなる寒さだったけれど、歩いていると体の中から発熱しだしていつの間にか寒さを忘れている。十二分に夕方の散歩を満喫してから、メニューの書かれた立て看板を出しているカフェに吸い込まれた。
店内に先客はなく、マスターがカウンターの中でゆるりと仕事をしていた。どこでもどうぞという言葉に甘えて、奥のソファに陣取る。二人掛けのソファはひとりには大きいけれど、休日の私はどっしり座る。心も身体も力が抜けてふやけていて、いつもより体積が大きいのかもしれない。
外にあった立て看板でしっかり把握していたが、そう、ここにはアルコールメニューがある。ソファにもたれてメニューをじっくり眺め、ビールを注文。間もなく、私の目の前に現れたのはスマートな小瓶の「東京ホワイト」だ。冷やされたグラスに自らの手でビールを注ぎ、やや白濁した金色と対面した。
ソファの脇に掛けられていったブランケットをひざに広げた。店内は暖かくブランケットも不要だけれど、なんとなく使ってしまうこの心理。ふわふわしたものに身体を包み込まれたいのだろう。ソファとブランケットに挟まれた私。真冬の街から逃げ込んできた安心感。
そこで冷えたビールに口をつけるのがまた良い。温まった体に冷たいシュワシュワが流れていく感覚を追いかける。例えばこれを、ウイスキーのお湯割りにしたら、それは少し「甘やかすぎる」のだ。
「東京ホワイト」は山梨の醸造所から生まれているらしい。「東京」を冠して東京で飲まれる山梨の丁寧なビールに微かなノスタルジーを感じる。
深呼吸をすると、店内を暖める石油ストーブのにおいがした。