他者の視点に自覚的になることから、PRは始まる。
強い言葉を見聞きするとびっくりする。
「これはダメだろ」
「絶対こうだよね」
「あり得ない」
「それだけは絶対許せない」
それはSNSで見聞きすることが多い。匿名性が人を強気にしているのかもしれない。けれど、知人との会話、街で自然と耳に入ってきた声にも強い言葉は現れる。そして、自分の心の中にもそれが漂っていることに気付かされることもある。
自分の目に見える範囲のものごとだけが、「世界」だと思っているのだろうか。自分に見えていないものがあまりに多いことに、無自覚すぎやしないか。強い言葉を見聞きするたび、違和感を覚える。自分の心の中にそれを見つけるたび、恥じている。
PRは「職種」じゃない。概念や思考の類だよね。
最近よく目にする論調で、私もおおきく共感するものだ。
もしかして、強い言葉を使う人たち・私たちには、「PR思考」が必要なのではないか。
※このnoteは#PRLT Advent Calendar 2022に参加しています。
PR思考とは、他者の視点に自覚的なこと
PR=Public Relations。さまざまな社会の構成員との関係を構築し、人々の認識変容から行動変容を促すこと。私は非PRパーソンに説明するときに、平たく「企業/組織の取り組みや情報を、世の中が求めるものごとや情報に変換する編集者です」と言ったりする。
そのためにPRパーソンに求められるのは、企画力、編集力、表現力、営業力、スピードに丁寧さ、誠実さ……たくさんあるが、すべての土台にあるのが「他者の視点に自覚的なこと」じゃないかと思っている。
他者の視点に立ってものごとを考えられること、と言いたいところだけど、他者の視点なんて100%トレースすることはできない。だから、せめて他者の存在に気づき、認識していたいという意図で、「他者の視点に自覚的なこと」とした。
たとえば、PRの手段のひとつであるメディアリレーションは、メディアやその先の読者の視点に立って情報を編集する。あらゆる発信においても、自社のサービスが誰のためのものなのかを考え、その誰かの視点に立った発信をする。いわゆる炎上も、ある視点に無自覚だったことが原因のひとつになることが多いだろう。
他者の視点に立ってものごとを考えられること
それが自分にはわかりきれないことを自覚すること
PRという概念に内包されたあまりに幅広いスキルの土台になるものが、この「他者の視点に自覚的なこと」。これって、PRパーソンに限らず大切な思考だよな?
PR思考は、世の中を少しいい場所にする
冒頭に書いた「強い言葉」を使うときというのは、自分から見える景色だけ、あるいは自分が手触りを感じられる部分だけを視点に取り入れているように見える。
もちろん先に触れたとおり、人は他者の視点を100%トレースできないのだから、あえて他の視点に目を瞑って、強い言葉を使って説得力を強めなければいけないときもあるかもしれない。それでも、あえて目を瞑ったことに気づいているかどうかには、大きな違いがあるだろう。
だから、「PR思考」をみんなが持つことができたら、世の中は少しいい場所になるんじゃないかな。
私はPRのキャリアをスタートさせて5年半ほどになる。今もRettyでPRの仕事を続けているのは、これまでの経験やスキルで組織に貢献できればという気持ちが中心ではあったが、それだけじゃなく、PR思考のアンテナを磨き続けることで自分の人生の役に立つと思ったから。
他者の視点に自覚的であり続けたいんだ。
自分の所属する組織にPR思考をインストールする
PRは職種じゃない。だったら、PR担当の私は、PR思考を組織にインストールすることも役割のひとつなんじゃないか。最近はそんなことを考えている。
まだまだ足りていないので最初の一歩くらいなのだけど、PR思考を組織にインストールするための取り組みをいくつか紹介して、この抽象的なnoteにメリハリをつけようと思う。
発信勉強会
届けたい情報や気持ちを届けたい相手に届けるには?というテーマで、文章の紡ぎ方の勉強会を2度にわたって社内で開催した。読者となる人の視点を考えて、文章を書く。私も悩み続けていることで完全ではないけれど、これまでの知見を共有する会にできた。
公聴結果やPR事例の共有
メディアさんとの会話で出てきた興味深いこと、Rettyへの視線、そして見かけた素敵な(あるいは大変な)PR事例をSlackで社内に共有している。
外の人からはこういうふうに見えていますよという情報は、そのまま他者の視点を自覚することになる。PR事例は、誰の視点を意識してどういう狙いでやったんだろうということを、自分の憶測含めてシェアしている。シェアするときの思考の整理で、自分のアンテナも磨かれていく。
「せきやさんの意見を聞きたい」と声をかけてくれるメンバーもいて、嬉しいなと思う。
Tech Blogやnoteのフィードバック
もともと誤字脱字や事実と相違がないか、非公開情報が含まれていないかなどの広報チェックはしているが、「より届けたい人に届けるため」のフィードバックも時間の許す限り行なっている。
希望があれば個別の相談にも応じている。膝を突き合わせて「誰のために」を軸にコンテンツについて話し合う時間はとても尊い。
アドベントカレンダーの普及
Rettyのアドベントカレンダーはエンジニアリング部門が中心となって毎年行われていて、参加者は基本エンジニアとプロダクトメンバーばかりだった。だから、今年は多様な職種の人に参加してもらいたくて、声をかけてみた。
まだ数は少ないけど、これからもっと当たり前になっていくといいなと思う。発信経験が、他者の視点への自覚を磨くから。
これからやっていきたいこと
まだ取り掛かっていないことだけど、PR思考ができているかを確認するガイドラインみたいなものを作りたい気持ちがある。他者の視点に無自覚になっていないか気づけるリスク管理の役割と、届けたい人に届ける施策をつくる役割。攻守どちらにも効くようなものがいい。
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ここまで書いてきたけれど、私にも他者の視点に無自覚なときはある。そして、完璧にはなり得ないと思っている。ただ、ひとりのPRパーソンとして大事にする気持ちを忘れたくないし、PR思考で世の中が少しよくなる未来を目指し続けたい。