海賊船でワクワク(エッセイ)
芦ノ湖は曇り。雨もちらついたが、海賊船の乗船時には止んでくれた。風は強く、湖も波立っている。海賊船は三階建て、デッキで外にも出られる。前には海賊の人形があって、子どもが恐くて泣いてしまったと妹が言った。そのせいかどうかはわからないが、今は海賊人形はなくなっていて、その代わりというわけではないが、船の上に立てられた国旗の上にカラスが一羽止まっていた。
乗船すると、内装も豪華で席もゆったりしていた。二階の席に座る。
小学生の団体が入ってきた。遠足なのだろうか、みんなが三階に向かって走っている。その子どもたちの瞳は輝いていて、船が動き出すと歓声があがった。
子どもたちのワクワク感溢れる空気に圧倒されながら、私も子どもの時代に戻ってこの船に乗りたかったと思う。
いや、ワクワク感なら大人だって味わえるはずだ。私は湖面やまわりの木々、建物、神社(九頭竜神社と箱根神社)の鳥居など、目につく景色を目に焼きつけようと、窓に顔を近づけられるだけ近づけていた。
ワクワク感を失うことは、人間にとって生きる楽しみを失うことと同じだ。11月17日の日曜美術館で柚木沙弥郎が紹介されていた。日常からワクワクを探し出す百歳の民芸作家。柚木は「失敗の中に喜びがある」と言う。さすがにワクワクの天才だ。ぜひ見習いたいものだ。