差別(ショート・ショート)
火傷で顔を失った私に、
「大丈夫、あなたは普通の人と何も変わらないわ」とあなたは言う。
あなたは優しい人だから、いつも私に気を使ってくれる。
でもその言葉は、私のことを普通の人と思っていないからこそ出てくるものなんだよ。
「一番差別しているのはあなたよ」
などと言おうものなら、きっとあなたは驚愕の表情を浮かべて言うでしょう。
「かわいそうに。あなたは顔を失ったから偏屈になってしまったのね。世間があなたをこんなふうにしてしまったんだ」と。
差別の上に差別を塗り被せたことに、あなたは気づきもしないでしょうね。
火傷の顔を見て視線を避けるのも、わざと場を明るくしようとするのも差別なんだよ。私の顔を見てぎょっとするのだって、かわいそうにと同情を見せるのだって差別なんだよ。
「そんなこといったって、感情をなくすことはできないのだから、仕方ないじゃない」
あなたは言うかもしれない。しかし、あなたはそこで気づかなければいけない。この世から差別をなくすことは不可能だってことを。
もし、本当に差別をなくしたいのだったら、あなたは塩酸を顔にかけて顔を失わなければならない。そこで初めて、あなたは私と同じ立場になる。あなたは心の底から私を差別しなくなる。
顔を失い、片目を失ってみればいい。あなたはまわりから同情される身分になれる。そのときあなたは、差別反対を声高に叫ぶ人たちこそ、一番の差別主義者だとわかるだろう。きれい事の世の中ほど、差別される者には生きづらい世の中なんだと気づくだろう。
さあ、ここに塩酸があるわ。これを顔にかけるだけだから。
そんなことできるわけがない?
大丈夫、私が手伝ってあげるから。