白い女(ショート・ショート)

白という色にどんなイメージがある?

清潔、清純、純粋ってところだろうね。他の色にすぐに染まりそうな儚さもある。初めて真澄にあったとき、この娘は白い女だと感じたんだ。肌も真っ白だったけど、それだけじゃない。世の中の汚れってもんを一度も見たことがないんじゃないかって、そんな円らな瞳を見たら、もうオレは真澄に一目惚れするしかなかったっていうわけだよ。

この娘の純粋な心をオレ色に染めてみたい。なんて考えたね。オレだけじゃないと思うよ。真澄に会えばどんな男だって、そう思わせずにはいられない、そんな白さを真澄は持っていたんだ。

オレが真澄に「付き合ってくれないか」って言ったら、真澄は顔を赤くして、首をチョコンとうなずいて見せた。あの時の気持ちはどう表現していいかわからないよ。天国に昇った気分って言っても、全然おおげさじゃないくらいだよ。それからは毎日毎日が楽しくてね。

初めてのデートは映画館に行ったよ。「どんな映画が観たいか」ってオレが聞いたら、オレが観たい映画だったら何でもいいって言うんだ。柄にもないけど、ラブロマンスの映画なんて観ちゃってさ。本当は任侠物が好きなんだけど、まさか真澄をヤクザが殺し合う映画に連れていくわけにもいかないじゃないか?

食事だってそうさ。「何が食べたい?」って聞いても、オレが食べたいものが食べたいなんて言いやがる。オレはラーメンとギョウザが食べたかったけど、真澄をラーメン屋に連れていくわけにはいかないだろう? なんだか真澄を汚しちゃいそうで、そんなこと出来るわけがない。結局オシャレなイタリアンのお店をネットで探したよ。

すべてがこんな調子さ。デートの場所もオレが行きたいところがいいって言うんだ。でも、まさか真澄を競馬場になんか連れていけるわけがない。

ホテルに連れ込んで、早くオレ色に染めたい。心の底ではいつも思ってるんだけど、あの瞳で見つめられちまうともうダメなんだ。

オレ色に染めたいなんて、最初はカッコいいことを思ってたけど、逆に真澄といると、どんどんオレらしさってもんが消えていってるんじゃないかと思えてきたよ。

オレは思ったんだ。白って色は清潔だったり、清純だったり、純粋だったりってイメージだったけど、白って色は本当は恐い色なんだって。白は何にでも染まる色なんかじゃないんだ。白は相手の個性を薄めちまう色なんだよ。

真澄と付き合い始めて三年が過ぎたけど、オレたちまだキスもしてないんだぜ。このオレがだよ。ありえねーだろう? 他の女に乗り換えればいいんだろうけど、もうオレには真澄しかいないんだよ。真澄しか見えないんだ。なんだって? オレが真澄の色に染まってるんじゃないかだって? ハハハ、確かにそのとおりだ。このままだとオレは白い男になっちまうかもしれねえな。

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