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Photo by
tamaga_wa
ロウアー物語 2025.2.20
<プロローグ> ―1―
東の空がソレイユオレンジに染まりはじめたとき、サリー・ウエストは家畜舎で乳搾りを始めていた。
家畜舎は木造平屋建ての簡素な新築の建物だった。ニスを塗られた木肌はつややかで、木の香りが部屋に満ちている。長方形の長辺にあたる南と北には、それぞれ大きな窓が配置され、今はサリーによってすべて開け放たれていた。南風が迷子になった仔犬のように小屋の中をひと回りしては、北の窓へと通り抜けていく。柵はなく、南側には木でできた新しいベッドがふたつ並び、反対側には幅の狭い木製テーブルと2脚の椅子が置いてある。床は掃除がしやすいという理由で、東ユーラシア国ニッポン州からわざわざ取り寄せた青い畳が二十枚、整然と敷かれていた。部屋の一番突き当りには間仕切りがあり、中には簡易シャワー室とトイレが設置されている。
窓から射しこむ光が少しずつ明るくなってきた。もう人工の明かりは必要なさそうだ。サリーは節電のため、LEDランプの電源を切った。