『日曜美術館』を見て(2022.10.30)
『日曜美術館』の今日のテーマは牛腸茂雄。カメラマン。36歳で亡くなった。
命に限りがあるのは誰もが知っている。しかし、人はそれを意識することを避けて生きている。二十歳まで生きられるかどうかわからないと言われた牛腸にとって、死はいつも側にあった。だからこそ生に悔いを残さないことが人生の目標となった。病弱のうえ、脊椎カリエスが原因で骨が歪曲してしまい、いつも孤独を感じていた小学生時代、部屋で寝たまま、鏡を通して外の世界を見ていたそうだ。牛腸にとっては外と繋がるための必需品が鏡だった。デザインを学んだ牛腸が、カメラを選ぶのは必然だったのだろう。鏡がカメラに変わっただけなのだ。
牛腸は他者との関係に飢えていた。それが人を撮り続けた理由だろう。
被写体の視線がカメラを構えている自分の視線と交差するとき、自分と写されている人と繋がったと感じた瞬間にシャッターを切ったのに違いない。だからこそ、ただのスナップ写真にはならず、そこにお互いを思いやる暖かさが感じられる。
写真集最後の写真は、子どもたちが霧に向かって走っていく姿を写していた。現世からもうひとつの世界に向かっていくかのような子どもたちの中に、一人だけ逆方向に向かって走る子どもが写っている。自分の死を覚悟しながらも、最後の抵抗を試みていたのだろうか。やりたいことはまだまだあったはずなのに、体が限界を訴えた。最期の言葉は、「くそー、ネバーギブアップ」だったと言う。
生きることは死を前提としなければいけない。いつかやろうでは遅すぎる。五十歳を過ぎてから小説を書き始めた僕は、残りの生を意識して初めて行動を起こすことができた。これからの人生を悔いなく終えるのは難しいことだろうが、怠け心が現れたときには、牛腸茂雄の人生を思い出したい。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?